膀胱機能と皮膚知覚刺激との関連を示唆する事象として、シャワーを浴びた瞬間や、冷水で手を洗ったときなど、周囲環境の急な温度の低下や皮膚刺激によって尿意切迫感や尿失禁を生ずることが経験的に知られており、これらは過活動膀胱の病態の一つと考えられる。また、脊髄損傷患者の大腿部から陰部にかけての皮膚領域に刺激を加えると排尿を誘発することがtrigger voiding として知られ、脊髄損傷患者の排尿の補助として利用される場合がある。一方、皮膚と内臓の相互作用の例として鍼灸治療が知られており、尿・便失禁、間質性膀胱炎、夜尿症の治療に応用されている。このように皮膚刺激は膀胱知覚および膀胱収縮と密接に関係しているにもかかわらず、そのメカニズムは不明であった。 私たちは、ラットを用いて、膀胱と皮膚に逆行性神経トレーサーを投与し、知覚神経回路の詳細を検討した。その結果、膀胱と皮膚に同時に軸索を投射する二分岐軸索の存在を証明した。これは、皮膚の知覚と、膀胱の知覚の一部は一次知覚神経レベルで回路が混線し、中枢に至った際に膀胱知覚と皮膚知覚が混同される可能性があることを示す物と考えられた。さらに、この二分岐軸索を投射している神経細胞体の特徴を探るため、in situ hybridization 法を用いた検討を行った。その結果、同神経細胞体の一部に寒冷刺激受容体の候補として知られる TRPM8の発現が確認された。以上の知見より、寒冷刺激により尿意切迫感が誘発される原因の一つとして、皮膚で受容された寒冷刺激の一部が中枢神経に至る過程で膀胱知覚刺激と混同され認識される可能性が示された。
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