EBAG9 (estrogen receptor-binding fragment-associated antigen 9)は性ホルモン応答遺伝子として同定された。さらにEBAG9の発現は前立腺がん、腎がんなどをはじめとする複数のがんにおいて、進行度と相関し予後予測因子となることが明らかになっている。がん細胞におけるEBAG9の作用として、がん細胞の免疫系からの回避に関与していると考えられている。一方で、CD8+ T細胞において発現するEBAG9は、グランザイムなどの細胞外放出を抑制し、細胞傷害活性を負に調節することが知られている。このようにEBAG9は、宿主側からもがん細胞に対して作用すると考えられているがそのメカニズムは不明な点が多い。本研究では、Ebag9ノックアウトマウスにがん細胞を移植して腫瘍を作製し、宿主側におけるEBAG9の役割をin vivoで解明することを目的とした。始めに、マウス膀胱がん細胞を、Ebag9ノックアウトマウスまたは正常マウスの皮下に移植し腫瘍増殖を比較したところ、Ebag9ノックアウトマウスにおいて腫瘍増殖が抑制されることが明らかになった。また、がん細胞の転移について解析したところ、肺への転移数が正常マウスと比べてEbag9ノックアウトマウスにおいて減少していることが判明した。形成された腫瘍内におけるCD8陽性細胞、CD3陽性細胞、CD4陽性細胞の数を免疫染色法にて定量したところ、Ebag9ノックアウトマウスに作製された腫瘍内において、これらT細胞の浸潤が増大していることが示された。また、Ebag9ノックアウトマウスに作製された腫瘍において免疫関連因子の発現を定量的PCR法によって解析した。本研究により、EBAG9は宿主側の免疫反応を制御することによりがん細胞の増殖と転移に関与していることが示唆された。
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