近年、前立腺癌の進展や骨転移に関して、腫瘍微小環境におけるMCP-1の発現が関連するという知見が集積されつつある。しかし、MCP-1の制御機構に関する検討は不十分であり、いまだ臨床応用にはいたっていない。MCP-1は、炎症性疾患において、アンギオテンシンII (AngII)1型受容体(AT1R)の制御を受けると報告されている。これまで我々は、前立腺癌におけるAT1Rを介した腫瘍血管新生の制御について報告してきた。本研究では、前立腺癌のAT1R発現の観点から、MCP-1の発現制御機構について検討した。 当院で診断、治療された限局性前立腺癌121例および去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)による剖検症例17例、これら138例のパラフィン切片を用いてMCP-1およびマクロファージの免疫染色を行い、各種臨床的パラメータとの関連を検討した。臨床検体においてGleason score 7以上、pT3以上およびCRPC症例でMCP-1の発現ならびにマクロファージの浸潤が有意に多かった。多変量解析の結果、PSA再発に関する独立危険因子は術前PSA 15ng/ml以上とMCP-1高発現であった。 In vivoおよびin vitroの検討では、LNCaP、C4-2、C4-2AT6という徐々にアンドロゲン非依存性を獲得する3種類のヒト前立腺癌細胞株を用いた。ARBはカンデサルタンを用いた。最も悪性度の高いC4-2AT6皮下腫瘍モデルでAT1RおよびMCP-1の発現が高く、またARBによってMCP-1の発現とマクロファージの浸潤を有意に抑制し、それらはPI3K/Akt pathwayを介することが示された。 すなわちAngII/AT1R-PI3K/Akt pathwayが、前立腺癌における MCP-1の発現制御機構のひとつであり、とくにCRPCに対する新規の治療標的となり得る可能性が示唆された。
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