研究課題/領域番号 |
23791796
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研究機関 | 公益財団法人野口研究所 |
研究代表者 |
土田 明子 公益財団法人野口研究所, 研究部, 研究員 (70378024)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 腎癌 / 転移 / 糖転移酵素 / ジシアリル糖鎖 / 腫瘍マーカー |
研究概要 |
これまでに、GalNAc-DSLc4の合成に関わる糖転移酵素遺伝子B4GalNAc-T2を、GalNAc-DSLc4糖鎖抗原をほとんど発現していない腎癌細胞株に遺伝子導入し、糖鎖リモデリングの結果惹起される表現型の変異について解析したところ、表現型の一つとして、GalNAc-DSLc4安定発現株はラミニン処理プレートに特異的に接着することが明らかになった。そこでラミニンとの結合に関わる接着分子インテグリンの細胞表面における局在を調べた。ショ糖密度勾配法により細胞膜成分を分画したところ、安定発現株ではインテグリンbeta1がシグナル分子の集合するラフトドメインにも一部存在しており、ラミニン表面に対して強く接着するメカニズムに関与している可能性が示唆された。さらに共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察したところ、インテグリンbeta1はラフトマーカーであるcaveolin-1分子とよく似た局在を示し、ラミニン未処理プレート表面に対する接着面には両分子の共局在が確認できたが、細胞間の接着面にはcaveolin-1分子は強く局在するがインテグリンbeta1分子は局在していなかった。一方、腎癌の悪性化にはガングリオシド特異的に働くシアリダーゼ(NEU3)の異常高発現が関与することが近年になって報告されたため、本研究のB4GalNAc-T2遺伝子強制発現株についても、NEU3のmRNA発現量をreal-time RT-PCRにより確認し、NEU3の異常発現の有無を調べた。しかし、GalNAc-DSLc4安定発現株の増殖・浸潤能の亢進やラミニン表面への接着性と、Neu3のmRNA発現量には相関性は全く認められなかったため、安定発現株で惹起されたさまざまな特性はNeu3を介さない他の経路により引き起こされている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GalNAc-DSLc4糖鎖の発現量が、インテグリンbeta1分子の細胞膜上での局在にどのように関与しているのかを明らかにすることは、GalNAc-DSLc4発現細胞株の高転移性を解明する上で重要と考え、共焦点レーザー顕微鏡下での細胞接着時の各分子局在について経時的に観察しようと試みているが、ガラス表面のラミニン修飾が効果的に出来ていない可能性が高く、ラミニン修飾ガラスプレパラート上へのGalNAc-DSLc4発現細胞株の接着過程が、培養ディッシュへの接着時のように再現出来ていないと思われる。この条件検討のために、時間がかかっている。また、GalNAc-DSLc4抗原を提示する糖脂質もしくはタンパク質を同定することで悪性形質の発現に直接関与していると思われる会合分子を見出すことが可能となると考えているが、RM2抗体を用いた免疫共沈降の条件検討において時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
糖脂質以外にGalNAc-DSLc4抗原を提示しているキャリアータンパク質の存在の有無を明らかにする。そのために、免疫沈降とMS解析により同定を試みる。また、GalNAc-DSLc4抗原と会合するリガンド分子を見つけ出すことで、悪性化に関与する分子群の同定を試みる。さらに、B4GalNAc-T2糖転移酵素には二つのisoformが存在しているので、それぞれの糖転移酵素の発現と悪性化との関連性について明らかにしていく。ラミニンコーティング表面に接着する際の接着分子の挙動および局在、それに伴うシグナル分子の動きを把握することで、転移メカニズムについて明らかにし、転移を抑制できるような治療法開発の手掛かりにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
GalNAc-DSLc4抗原を提示する糖脂質もしくはタンパク質の同定、もしくは悪性形質の発現に直接関与していると思われる会合分子を見い出せたら、質量分析を用いたタンパク質同定を行なう予定である。LC-MS/MSやMALDI-TOF MSによるタンパク同定を受託サービスにて行ないたいと考えている。(定価350,000円)また、GalNAc-DSLc4抗原がタンパク質に提示されていた場合、その糖鎖構造の詳細な解析を行なう必要があるので、受託サービスを利用したいと考えている。(定価200,000~500,000円)
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