卵母細胞の成熟過程における卵胞発育障害は早発閉経や高齢不妊患者において治療困難な病因であり、それらの大半は原因不明である。本研究は生殖細胞とkeratinocyte特異的に高発現するBasonuclin1 (Bnc1)の遺伝子発現が、卵母細胞においてエストロゲン受容体beta(ERb)を介して制御されるか否かを明らかにし、卵母細胞におけるBnc1の生理的意義について分子レベル・遺伝子レベルで解析するとともに、不妊におけるERb依存的なBnc1の役割について明らかにすることを目的としている。今年度に得られた知見は以下の通りである。ERb選択的アゴニスト (diaryl-propionitrile: DPN)などの添加実験により、日齢4日及び10日両方の卵母細胞において、Bnc1遺伝子発現がエストロゲンシグナルによって正に制御されることが判明した。従って、これまでゴナドトロピン非依存的と言われている時期であっても、ゴナドトロピン非依存的なメカニズムでエストロゲン受容体依存的な卵母細胞の成熟機構が存在する可能性が示唆された。また、DBTSSを用いた解析により、Bnc1にはこれまで知られているものよりも長いスプライシングバリアントが存在することを明らかにし、そのバリアントの局在は主に細胞質であることが判明した。Bnc1バリアント mRNAの5’UTRは非常に短く、転写開始点からfirst ATGまでの距離も非常に短いため、通常の転写メカニズムとは異なる転写のメカニズムが存在する可能性を見出した。
|