正常乳腺上皮細胞において、エストロジェンによるエストロジェン受容体発現細胞を介したエストロジェン受容体非発現細胞の傍分泌的増殖制御機構の存在を調べた。正常乳腺上皮細胞のモデルとして、ヒト非腫瘍形成性乳腺上皮細胞株であるMCF-10A細胞を用い、安定的にエストロジェン受容体を発現する細胞とエストロジェン受容体を発現しない細胞の共培養実験を行った。前年度に引き続き、エストロジェン受容体を安定的に発現するMCF-10A細胞(ERIN9)および、エストロジェン受容体を発現しないMCF-10A細胞(10A-IRES-NEO)を1:1の割合で混合し、共培養した。エストロジェンは10 nMの濃度で24時間処置し、最後の2時間にbromo-2’-deoxyuridine (BrdU)を増殖細胞に取り込ませた。培養後細胞を冷メタノール固定し、BrdU取り込み細胞を免疫染色法により検出し、BrdU陽性細胞の割合を細胞増殖率として検出した。共培養直前にERIN9のみ、PKH67を用いて培養細胞を蛍光標識した。標識に用いるPKH67の濃度は、40μMが適当であった。PKH67の蛍光は培養時間の経過と共に退色し、また非標識細胞への移染もみられたが、PKH67の蛍光検出時の露光時間を延長することにより、PKH陽性細胞(ERIN9)と陰性細胞(10A-IRES-NEO)を区別することが可能であった。前年度同様、エストロジェン受容体発現細胞においては増殖率は約65%に低下し、エストロジェン受容体非発現細胞においては増殖率に変化は認められず、両細胞においてエストロジェンによる傍分泌的増殖制御機構の存在は確認できなかった。この結果をふまえて、当初予定していた間質系細胞を加えた共培養系における傍分泌的増殖制御機構の解析、および傍分泌性増殖因子の同定は中止した。
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