研究課題/領域番号 |
23791825
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小谷 友美 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (70359751)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | LPA / S1P / EVT / 浸潤 / autotaxin |
研究概要 |
妊娠高血圧症候群は、全妊婦の3-4%の発生頻度であり、WHOの推計によると、年間10万人の妊婦がこの疾患で死亡している。現在、確立された治療法はなく、妊娠終結が第一選択となり、母体の救命のために未熟児分娩を選択するという苦渋の決断を迫られている。近年、新生児医療の進歩により児の生命予後は向上したものの、疾患の特徴でもある胎盤低形成による子宮内胎児発育遅延をしばしば合併し、児の神経学的後遺障害は依然として問題となっている。従って、本疾患の原因究明およびその治療法の確立は重要課題と考えられる。これまで病態に関する報告は多岐にわたってきたが、近年、妊娠初期の母体脱落膜へのEVT浸潤障害による胎盤形成不全説を支持する報告が国内・国外で相次いでいる。 本研究では、新規生理活性物質であるリゾリン脂質、スフィンゴシン1リン酸(S1P)およびリゾホスファチジン酸(LPA)の相互作用によるEVT浸潤調節機構を分子生物学的に解明すること、また、これらの受容体拮抗薬がEVT浸潤不全を改善しうるかを検討する。 今年度は. 患者からのインフォームドコンセントを得て集積した妊娠初期子宮筋―脱落膜―胎盤組織でLPAの受容体の各サブタイプおよびAutotaxinの発現パターンについて、検討した。初代培養EVT細胞およびEVT細胞株HTR-8/SVneo においてLPAがchemoattractantとして遊走能、浸潤能を促進した。増殖能には影響を認めなかった。またS1Pによる浸潤抑制を軽度改善する効果を認めた。これらの結果を第19回日本胎盤学会で報告したところ、学会賞である相馬賞受賞するという成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初代培養EVT細胞への遺伝子導入が困難であったので、EVT細胞株HTR-8/SVneoへの遺伝子導入に切り替えたが、今のところ導入効率が悪く条件を検討中である。それ以外は計画通りにほぼ進行しており、翌年度の計画も一部前倒しに施行している部分もあるので、全体的にはほぼ計画通りの進行と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子導入が条件設定の変更によってもsiRNAで成功しないときには、レンチウイルス感染によるshRNAの導入も考慮していく。今年度も国際学会に参加し、最新の知見を得るとともに、同じ研究分野の研究者と交流し情報を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度分予定の遺伝子ノックダウン実験を継続しつつ、今年度の計画は以下に示す。1. LPAのEVT機能への効果を分子生物学的に解明するために、初代培養EVT細胞から単離しLPA刺激下にまたは無刺激で培養したEVT細胞からそれぞれ抽出したmRNA検体について、今回購入予定のDNAマイクロアレイ遺伝子発現受託解析サービスを用いて、細胞接着因子、細胞遊走因子、アポトーシス関連蛋白などの遺伝子発現変化を網羅的に比較検討する。2. 1.で得られた結果に基づき、LPA刺激により発現変化を認めた遺伝子発現について、今回購入予定の特異的プライマーおよびプローべを用いて、半定量RT-PCR法にて比較検討する。3. 2.で発現変化の確認された遺伝子について、初代培養EVT またはHTR-8/SVneoにsiRNAを遺伝子導入し、発現抑制により浸潤機能に変化を生じるかをボイデンチャンバー法にて検討し、それらの遺伝子がLPAによるEVT浸潤制御に関与しているかを検討する。4. LPAとS1Pを同時に添加し、遊走能、浸潤能、増殖能の変化について、前年度の方法同様に、初代培養EVT細胞およびHTR-8/SVneoで検討する。また、この系の分子生物学的メカニズムも証明するために、1-3と同様の検討を加えると同時に、LPAに対するS1PのEVT浸潤抑制作用がどの受容体サブタイプを介するのかを決定するために、前年度に作成したLPA受容体サブタイプのsiRNAに加え、S1P受容体サブタイプのsiRNA(今回購入予定)も作成し、遺伝子導入し、浸潤能について同様に検討する。
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