1. 妊娠高血圧腎症 (PE) の胎盤では正常の胎盤に比べ、LOX-1、HO-1、ABCA1、LXRのmRNAが有意に低下していた。LOX-1およびABCA1は蛋白発現も有意に低下していた。さらに絨毛組織を低酸素(1%酸素)で培養するとLOX-1のmRNAは発現低下した。2. PEの胎盤から抽出した核蛋白において、Nrf2の活性化は正常胎盤に比べて有意に低下していた。3. JAR細胞および胎盤組織培養系においてDEMを添加すると、Nrf2の活性化(核内集積)および下流遺伝子HO-1の発現増強がみられ、絨毛細胞においてもNrf2/HO-1 pathwayが正常に機能することが確認された。4. JAR細胞に酸化LDLを添加すると、Nrf2の活性化(核内集積)およびHO-1の発現増強がみられた。また酸化LDLはABCA1、LXRの発現を増強させた。5. PEの母体血中では酸化LDLが高値となることが知られている。にもかかわらずPEの胎盤においてNrf2の活性化が生じず、HO-1の発現が低下していること、またABCA1の発現が低下していることにLOX-1の発現低下が関与している可能性を想定し、JAR細胞において、LOX-1阻害抗体を処理したのちに酸化LDLを添加した。その結果、酸化LDL添加によって発現が増強したHO-1、ABCA1は、LOX-1阻害抗体添加によってその発現上昇が有意に抑制された。6. 妊娠の各時期の胎盤、絨毛においてNrf2のmRNA発現を検討すると、妊娠の初期において発現が低かった。また、JAR細胞を低酸素環境下で培養すると、Nrf2の活性化が抑制されていた。7. siRNAによってNrf2をノックダウンすると、酸化ストレスを加えても抗酸化ストレス酵素であるHO-1の発現増加が抑制された。これは、酸化ストレスが増強しているPEの胎盤において、Nrf2の活性化が低下し、本来増加すべきHO-1の発現も低下している状況を示していると推測された。8. JAR細胞にSimvastatinを添加すると、Nrf2の活性化が生じ、酸化ストレス防御遺伝子群の発現が増強した。
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