研究課題
当研究を始めるにあたって行った子宮体癌マイクロアレイデータGSE2109の予備解析により、漿液性腺癌特異的にSTAT1シグナル経路が亢進している可能性が示唆されたため、まず臨床サンプルを用いてSTAT1分子の発現を高分化型類内膜腺癌と漿液性腺癌の間で比較した。実際、免疫染色による発現比較でSTAT1は漿液性腺癌で発現が高く(p<0.05)、マイクロアレイを基にした予備解析の妥当性が示唆された。所有する子宮体癌細胞株20株におけるSTAT1発現を検討したところ、漿液性腺癌細胞株であるSPAC1-LでのSTAT1発現が高かったため、SPAC1-Lを用いて以後の実験を行った。siRNA法を用いてSTAT1の発現抑制を行うと、IFNγによるSTAT1発現亢進が抑えられるだけでなく、STAT1シグナル下流の諸分子の発現も抑えられた。さらに、STAT1発現を恒常的に抑制した株と親株を用いて機能比較実験を行うことで漿液性腺癌に特異的な悪性性格にSTAT1が寄与しているかを検討した。まず大阪大学から供与を受けたSTAT1dominant negative plasmidをSPAC1-Lに導入して発現抑制株を作成した。発現抑制が効果的になされているかを確認した後に、NOD/SCID免疫不全マウスに接種し、腫瘍形成実験を行ったところ、STAT1発現抑制株ではマウスでの腫瘍形成が抑制されており(p<0.05)、STAT1が漿液性腺癌における腫瘍形成に寄与していることが示唆された。さらにかねてからの計画通り、親株と発現抑制株について無添加群およびIFNγ添加群を作成し、それぞれを発現マイクロアレイに提出した。来年度にはこの結果に基づきさらに分子標的治療の礎になるデータが得られることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
予定していた免疫染色・マイクロアレイ提出は行えている。機能解析はまだ途中であるが、マウスの実験など順調に進んでいる。
提出したマイクロアレイをもとにバイオインフォマテクスの手法を用いて、ターゲット治療の候補となる分子もしくはシグナル経路を抽出する。昨年度に確立したマウスの腫瘍形成実験に基づき、ターゲット候補薬剤を投与し、その治療的効果を検証する。
前年度同様、担癌ヌードマウスでの治療実験を含めた各種機能実験を継続し、漿液性腺癌においてSTAT1経路が司る形質を検討する。ターゲット薬剤がin vivoでSTAT1経路に与える影響を検討するために、治療実験で得られるマウス腫瘍を転移部位も含めて詳細に検討する。一方、子宮体癌細胞におけるSTAT1シグナル活性が間質に与える影響を検討するため、子宮内膜間質細胞と共培養を行い、炎症性サイトカインや転移抑制物質の放出について検討する。年度末には2年間で得られた知見をもとに論文発表準備を進める。
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