研究課題/領域番号 |
23791844
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
石川 雅子 島根大学, 医学部, 助教 (50467718)
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キーワード | 癌 / ゲノム / 癌抑制遺伝子 |
研究概要 |
本邦での卵巣癌における明細胞腺癌の発生頻度は24.8%であり、30年間で約5倍に増加している。卵巣明細胞腺癌は白金製剤を主体とする現在の化学療法に抵抗性で、極めて予後不良であるが、その分子生物学的特徴はほとんど解明されていない。今後、治療成績向上のためには、卵巣明細胞腺癌の分子生物学的特徴を解明し、その特徴にターゲットを絞った創薬が必要と考えられる。卵巣明細胞腺癌における新規癌抑制遺伝子ARID1Aに焦点を絞り、遺伝子増幅の頻度、臨床病理学的因子との関連、予後、抗癌剤感受性について検討してきた。 1. ARID1A遺伝子導入における抗癌剤感受性の検討:ARID1Aが遺伝子変異している卵巣明細胞腺癌株にWild typeのARID1Aを遺伝子導入し安定遺伝子導入細胞を樹立し、その後、コントロールベクター導入細胞と比較し、抗がん剤に対する感受性が上昇するか検討した。 2. ARID1A遺伝子ノックアウトにおける抗癌剤感受性の検討:逆にARID1AがWild typeの卵巣明細胞腺癌株においてAdeno-associated virus vector(AAV)を用いてホモロガスリコンビネーションを生じさせ、ARID1Aの遺伝子ノックアウト細胞を樹立する。コントロールのAAV導入細胞と比較し、抗癌剤感受性(抗癌剤耐性誘導)が変化するか検討した。3. ARID1Aの制御する遺伝子群、パスウェイの解析:上述したARID1Aが遺伝子変異している卵巣明細胞腺癌株におけるWild typeのARID1Aの遺伝子導入細胞あるいは、Wild typeの卵巣明細胞腺癌細胞株におけるARID1Aの遺伝子ノックアウト細胞を用いてARID1Aの制御する下流遺伝子群を、マイクロアレイ法を用いて網羅的に検討する。マイクロアレイの結果を用いてパスウェイ解析を行い、標的遺伝子が制御するシグナル経路の同定を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は遺伝子クローニングに時間を要し、現在も引き続きクローニングの条件を検討中である。 その間、昨年度は子宮頸癌、子宮体癌といった他癌腫に対するARID1Aの位置づけについて検討した。子宮頚部腺癌/子宮頚部腺扁平上皮癌でARID1Aの消失は31.1 % (14/45) に認められ、子宮頚部扁平上皮癌の6.5 % (3/46) と比較し有意に高かった (p=0.0017) 。また子宮頚部腺癌/子宮頚部腺扁平上皮癌におけるARID1Aの消失はFIGO進行期、脈管侵襲、リンパ節転移、年齢、Ki67陽性などの臨床病理学的因子と相関せず、全生存期間、無増悪生存期間とも相関しなかった。 また子宮体癌についてもARID1Aの消失がよくみられることが報告されている。われわれの検討では、子宮体癌の24 % (27/111) にARID1Aの消失を認めたが、FIGO進行期、グレード、筋層浸潤、リンパ節転移、脈管侵襲、BMI、閉経の有無、年齢、エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター陽性などの臨床病理学的因子との相関は認めなかった。またPTEN、p53、Her2,MLH1の発現との相関は認めなかった。全生存期間、無増悪生存期間とも相関しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
卵巣明細胞腺癌における新規癌抑制遺伝子ARID1Aの機能解析および、その臨床応用へと展開していくため、本研究では以下の研究項目を予定している。遺伝子クローニングの条件を決定し、クローニングに成功すれば、下記に示す昨年度予定していたARID1Aの機能解析を進めることができる。 卵巣明細胞腺癌におけるARID1Aの機能解析 1. ARID1A遺伝子導入における抗癌剤感受性の検討:ARID1Aが遺伝子変異している卵巣明細胞腺癌細胞株にWild typeのARID1Aをレンチウイルスを用いて遺伝子導入し、安定遺伝子導入細胞を樹立する。その後、コントロールベクター導入細胞と比較し、抗癌剤に対する感受性が上昇するか検討する。 2. ARID1A遺伝子ノックアウトにおける抗癌剤感受性の検討:逆にARID1AがWild typeの卵巣明細胞腺癌細胞株においてAdeno-associated virus vector(AAV)を用いてホモロガスリコンビネーションを生じさせ、ARID1Aの遺伝子ノックアウト細胞を樹立する。コントロールのAAV導入細胞と比較し、抗癌剤感受性(抗癌剤耐性誘導)が変化するか検討する。siRNA、shRNAで遺伝子ノックダウンした場合はARID1Aの完全な機能喪失には至らないため、本研究では遺伝子ノックアウト法を用いることにした。 3. ARID1Aの制御する遺伝子群、パスウェイの解析:上述したARID1Aが遺伝子変異している卵巣明細胞腺癌細胞株におけるWild typeのARID1Aの遺伝子導入細胞あるいは、Wild typeの卵巣明細胞腺癌細胞株におけるARID1Aの遺伝子ノックアウト細胞を用いてARID1Aの制御する下流遺伝子群を、マイクロアレイ法を用いて網羅的に検討する。マイクロアレイの結果を用いてパスウェイ解析を行い、標的遺伝子が制御するシグナル経路を同定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度はクローニングに手間取り、免疫染色に重点を置いたため、余剰金(2,024,110円)が生じた。今年度は、遺伝子クローニング等にかかる分子生物学的消耗品に費用を使用するほか、クローニングに成功した後には、ARID1Aの機能解析の際、遺伝子導入を必要とする研究等に費用を使用する予定である。またマイクロアレイ法を用いた遺伝子の網羅的解析にも研究費を使用する予定である。
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