細胞老化誘導シグナロソーム破綻へのAllelic Expression difference(AED)の関与を明らかにするために、MDM2遺伝子の3'非翻訳末端のSNP(rs1690916、A/G)をマーカーSNPとして子宮体癌患者および対照群各45例より採取した組織(子宮体癌組織および正常子宮内膜組織)よりゲノムDNAおよびmRNAを抽出し、上記SNPを含む領域をRT-PCRーSSCP法を用いて解析した。正常子宮内膜組織ではゲノムDNAおよびmRNA上のマーカーSNPの存在比はいずれも1:1であり、AEDが存在しなかったが、子宮体癌患者由来の20例中2例において、mRNA上のマーカーSNPの存在比が大きく異なることが明らかとなり、これらにおいてはAEDが存在することが示唆された。 MDM遺伝子にはP1、P2という2つのプロモーターが存在するが、P1プロモーター由来の転写産物のAEDを同様にPCR-SSCP法で解析したところ、P1プロモーターからの遺伝子発現にはAEDが存在せず、MDM遺伝子のAEDはP2プロモーターに由来すると考えられた。P2プロモーターでは転写因子Sp1の結合配列上にあり、Sp1の親和性に影響を与えるSNP309がよく知られているが、われわれはこれとは別にP2プロモーター上のさらに5'側に新規のSNP(T/G)を同定した。このSNPにより本来Sp1結合配列である領域上にNF-kB結合配列が出現することを見いだし、NF-kBのp50サブユニットが同部位に結合することにより、MDM2の転写を抑制することを明らかにした。さらに上述したAEDを示す子宮体癌組織を用いた免疫染色で、p50が核内に異常蓄積していることから、in vivoにおいてもMDM2の転写におけるNF-kBシグナルによる抑制的制御機構の存在が明らかとなった。
|