研究課題/領域番号 |
23791848
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
山本 珠生 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (20405210)
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キーワード | 妊娠高血圧症候群 / 血管内皮機能障害 / 胎盤形成不全 / 一酸化窒素 / 活性酸素 |
研究概要 |
妊娠高血圧症候群(PIH)は高血圧を主症状とする症候群で、これまで多くの病因・病態研究が行われてきたが、未だ不明な点が多い。血液凝固異常も発生していることから、血管内皮機能障害が病態形成の中心とされている。PIH妊婦より得た抵抗血管を用いた実験より得た血管内皮機能の異常に着目した。ニトログリセリン長期慢性投与動物実験での血管内皮機能異常にみられるuncoupling現象、L-アルギニン+葉酸の急性投与がuncouplingを改善するとの知見をベースに、最近のPIHの病因形成仮説である胎盤形成不全による高血圧を誘導した動物モデルを用いて、PIHの血管内皮機能障害のunderlying mechanismの解明を確立するための研究を目的とした。 妊娠ラットの胎盤形成期に、一酸化窒素(NO)合成酵素阻害薬であるNω-Nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME)を持続投与することにより、胎盤形成不全を誘導し、血圧の上昇、胎盤・胎仔発育遅延などを発生するPIHモデル動物を作成した(L-NAME投与群)。妊娠20日に麻酔下に子宮を摘出し、胎仔・胎盤重量を測定し、子宮内胎仔発育を評価した。 L-NAME投与群では、胎盤の形成異常、胎仔発育不全と、血圧上昇や子宮動脈でのNOの機能異常を確認した。胎盤標本のサイトケラチン染色により、トロホブラストの子宮らせん動脈への浸潤を観察したところ、Control群において、脱落膜内血管へトロホブラストが侵入し、内腔が拡張していた。一方、L-NAME投与群では、脱落膜内の血管へのトロホブラスト侵入は少なく、血管内腔の拡張が認められなかった。胎盤形成期のL-NAME投与は、胎盤形成不全による胎仔発育不全を発症するとともに、血圧が上昇することから胎盤機能不全による血管トーヌスの増加を惹起したと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
L-アルギニン・葉酸投与による妊娠高血圧症候群の予防・治療への応用をすすめていくにあたり、これまでの臨床研究との整合性をはかるためにデータ検討を優先して行ったため。
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今後の研究の推進方策 |
L-NAME投与群にL-アルギニン1g/日、葉酸0.4mg/日併用投与した群を作成する。摘出した血管の内皮細胞内のNOや活性酸素種産生を測定し、血管内皮機能障害、内皮由来NO合成酵素(eNOS)のuncouplingに対する改善効果を検討する。血管組織中のL-アルギニンおよびeNOSの補酵素であるtetrahydrobiopterin(BH4)濃度を測定し、葉酸・L-アルギニンの補充作用のメカニズムを明らかにする。 標本摘出時に採取した赤血球、血漿におけるL-アルギニンや葉酸、BH4濃度、血漿中cyclic GMP濃度を測定する。血漿中ホモシステイン、asymmetric dimethylarginine (AMDA) を測定、8-OHDGの測定も行う。これらは、現在進行している妊婦へのL-アルギニン+葉酸投与での研究において細胞レベルでの変化を推察するための検討である。すなわち、動物血管より得られた詳細なデータから、妊婦の細胞レベルの変化を観察することが可能になる。
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次年度の研究費の使用計画 |
以下について、研究費の使用を予定している。 ・張力測定装置を購入し、進行が遅れている血管標本の収縮・弛緩反応の測定をすすめていく。 ・実験動物の購入 ・実験器具・試薬の購入 ・旅費(研究成果の学会発表)
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