妊娠高血圧腎症(preeclampsia; PE)妊婦より得た抵抗血管を用いた実験で、血管内皮機能の異常が発生していること、その異常は他の血管病とは異なる病態であることを明らかにした。PEの病因形成の原因として、妊娠初期のらせん動脈へのトロホブラスト侵入不全が関与するとの仮説が有力視されている。胎盤形成不全による高血圧を誘導した動物モデルを用いて、PEの血管内皮機能障害のunderlying mechanismの解明を確立するための研究を目的とした。 妊娠ラットの胎盤形成期に、一酸化窒素(NO)合成酵素阻害薬であるNω-Nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME)を持続投与することにより、胎盤形成不全を誘導し、血圧上昇、胎仔発育遅延を発生するPEモデル動物を作成した(L-NAME投与群)。妊娠20日に麻酔下に子宮を摘出し、子宮動脈内皮温存標本を作製した。 L-NAME投与群では、投与開始後より血圧上昇がみられ、投与中止後も血圧は高い傾向を示した。子宮動脈内皮温存標本において、L-NAME投与群では内皮刺激物質であるAcetylcholine(ACh)刺激によりNO産生の亢進を認めたが、ACh刺激による細胞内Ca濃度上昇および活性酸素種産生に差は認められなかった。胎盤重量は減少しており、胎仔発育不全も認めた。胎盤標本の子宮らせん動脈へのトロホブラスト浸潤を観察したところ、Control群において、脱落膜内血管へトロホブラストの沢山の侵入を認め、L-NAME投与群では、脱落膜内の血管へのトロホブラストの侵入は少なかった。 胎盤形成期のL-NAME投与は、胎盤形成を阻害し、胎仔発育を抑制した。さらに、何らかの化学伝達物質が局所で産生された結果、PEと同様にNO機能が低下し、血管トーヌスの増加による高血圧が惹起された可能性が考えられた。
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