研究課題/領域番号 |
23791859
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
竹原 俊幸 近畿大学, 医学部, 助教 (60580561)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 生殖細胞 / ES細胞 / EpiSC / 始原生殖細胞 / 熱刺激応答 / 低酸素 / 高度生殖医療 / 再生医療 |
研究概要 |
現在までに、哺乳類の生殖細胞発生機構について様々な研究が進められているが、未だに不明な点が多い。近年、胚性幹細胞(ES細胞)からの生殖細胞の分化誘導によって、生殖細胞の獲得あるいは、生殖細胞発生に関わる分子機構の解明が試みられている。しかし、誘導効率が低いことや、異常な減数分裂がおこることから正常な生殖細胞の獲得は困難となっている。本研究では、特に減数分裂を完了した半数体細胞の獲得を目的とし、熱刺激応答における生殖細胞の発生への影響を考慮したES細胞から効率の良い生殖細胞の分化誘導法の確立を目指す。本年度は生殖細胞の分化誘導系の確率を目指し、マウスES細胞を用いて始原生殖細胞の誘導法を検討した。本実験で実施した方法は、体内における生殖細胞の発生過程を模範するため、(1)ES細胞からエピブラスト幹細胞(EpiSC)の誘導(2)始原生殖細胞の誘導という2段階の誘導方法の検討を行った。まず、(1)の誘導法は、胚発生時の着床前後において酸素濃度の低下が起こることを考慮し、同様に分化誘導環境の酸素濃度を低くしES細胞からEpiSCへの誘導を試みた。すると、ES細胞から効率よくEpiSCへと誘導が行うことができ、その性質を維持したまま培養することが可能であった。次に、この得られた細胞から、始原生殖細胞を誘導できるか検討を行った。誘導法にはOct4-dePE GFPをレポーター遺伝子として導入し、胚葉体を介した分化誘導を行った。その結果、GFP陽性細胞が培養5日目において出現し、それらは始原生殖細胞の性質を有していた。本年度で実施した研究結果から、ES細胞からEpiSCを介した始原生殖細胞の分化誘導法が確立でき、安定的な生殖細胞の分化誘導モデルとして利用できると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では大きく3つの研究段階:(1)生殖細胞関連遺伝子を指標としたレポーター遺伝子を導入した細胞株を樹立し、生殖細胞の分化誘導法を構築する。(2)低温度培養環境における最適な誘導条件の検討し、ストレス応答における生殖細胞誘導への影響を明らかとする。(3)核相の変化などを観察することで正常に減数分裂を完了した半数体細胞であるかを観察し、また、受精能及び発生能についても検討する。本年度では、本研究を進める上で最も重要な「ES細胞から安定的に生殖細胞を誘導できる分化誘導系」の確立を行うことができた。特に、本法の特徴である成長因子や阻害剤などを使用せず、自発的に誘導できる方法は、熱刺激応答の影響を明確に示すことができる実験モデルとして有効であると考えられる。さらに、ES細胞からEpiSCを介して生殖細胞を得る誘導方法は、体内の胚及び生殖細胞の発生過程を模範していることから、発生学的な生殖細胞誘導モデルとして価値があると考えられる。また興味深いことに、酸素濃度を変化させることによってES細胞からEpiSCへの誘導が効率よく行えることを明らかにしたことは、多能性幹細胞における未分化維持シグナル経路の研究においても非常に興味深い知見である。したがって、本年度で実施した研究の達成度は、おおむね順調に進展しているとする。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、ES細胞からEpiSCを介して安定的に始原生殖細胞を誘導する実験系を確立することができた。したがって次年度では、本年度で確立した誘導方法を用いて実際にマウスES細胞から始原生殖細胞への誘導後、不妊マウス精巣へ移植し、in vivo環境下において半数体精子細胞の獲得ができるかを検討する。次にin vitroにおいて同様に半数体精子細胞の獲得を試みる。体内での生殖細胞の発生では、熱刺激によってHeat shock factor1(HSF1)が活性化し、減数分裂期の精子細胞がアポトーシスを引き起こすことが明らかとなっている。通常、体外培養環境下では37度で培養するため、この熱刺激応答によって生殖細胞が細胞死を起こし、誘導が困難となっているのではないかと推測する。そこで、上述した現象を考慮し、培養温度環境を変化させることによって生殖細胞への誘導効率の変化を観察し、最適な生殖細胞の誘導条件を確立することで半数体生殖細胞の獲得を目指す。また同時に、熱刺激によるストレス応答に関係するHSF及びHSPが生殖細胞の発生、分化そして生存にどのような影響を及ぼすかを明らかにするため研究を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では、引き続きマウスES細胞の培養及び生殖細胞への分化誘導に必要な培養液・成長因子を購入する予定である。また、熱温度応答と生殖細胞の発生に関する研究を進めるため、HSFやHSPの阻害剤や抗体を用いて生殖細胞への誘導時におけるHSP及びHSFの発現解析及びその影響を解析する予定である。解析には免疫沈降、Westernblot、Realtime-PCR、免疫染色、ChIP、RNAiなどを行う予定であるため、これらに関係する試薬の購入を行う。また、マウスだけではなくカニクイザルES細胞の培養を行うため、その培養液・成長因子など培養に関係する試薬の購入を行う。
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