研究課題/領域番号 |
23791859
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
竹原 俊幸 近畿大学, 医学部, 助教 (60580561)
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キーワード | ES細胞 / 生殖細胞 / EpiSC / 低酸素 / Oct4 dePE / 半数体精子 |
研究概要 |
現在、胚性幹細胞(ES細胞)や誘導多能性幹細胞(iPS細胞)からの生殖細胞を体外にて分化誘導し、生殖細胞の獲得あるいは、生殖細胞発生のモデルとして発生に関係する分子機構の解明が試みられている。しかしながら、安定した誘導条件が未だに明らかとなっておらず、正常な生殖細胞の獲得は困難となっている。本研究では、昨年度得られた技術を用いて、ES細胞から始原生殖細胞を獲得し、その詳細な特性解析及び精細管移植によって半数体細胞への分化誘導を目的とし、誘導を行った。 本年度は、これまでに蓄積された実験データ及び方法を用いて、実際にマウスES細胞から雄性生殖細胞の誘導を試みた。本実験で使用した方法は、2段階の誘導方法を使用した。まず、分化誘導環境の酸素濃度を低くする事でES細胞からEpiSCへと誘導を行った。次に、誘導されたEpiSCを用いて浮遊培養を経て三胚葉構造を有するEBを作製した。使用したES細胞には効率的に生殖細胞を分離する事を可能とするOct4-dePE GFPをレポーター遺伝子として導入している。実際に誘導されたEB中において、GFP陽性細胞の出現が認められた。これらの細胞はVasaやStra8などの始原生殖細胞の特異的なマーカー遺伝子を発現していた。さらに、始原生殖細胞の大きな特徴である脱メチル化においてもSnrpn及びH19遺伝子において認められた。これらの結果から、移動期後期である胎生11.5日齢における始原生殖細胞を誘導できることが示唆された。さらに、得られた始原生殖細胞様細胞が正常に精子細胞へと分化する事が可能かを検討するため、精細管移植を実施したところ、精巣内に精子様細胞の存在が認められた。以上のことから、半数体精子細胞を得る方法として今回構築した誘導方法は有効であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、生体内で起きている生殖細胞の発生を、ES細胞を材料に、ES細胞からEpiSCを経て、始原生殖細胞そして半数体生殖細胞へと得る事を目的にしている。昨年度、生殖細胞関連遺伝子であるOct4-dePE GFPをレポーター遺伝子として導入したES細胞を作製し、低酸素環境下において効率的にEpiSCへと分化誘導する方法を構築した。本年度では、さらに誘導段階を進め、実際にES細胞から「移動期後期にあたる思われる始原生殖細胞の獲得」が可能となった。特に、得られた細胞が実際に「精細管内に生着し、精子様細胞へと分化する」ことから、本研究の実験実施計画の2段階目である「マウス半数体細胞の獲得」に値する研究結果が得られた。また、本法は成長因子や阻害剤を使用していないため、今後は生殖細胞発生に関連した因子に着目することでさらなる誘導効率の向上も期待できる。したがって、本法で構築した自発的な誘導方法は、生殖細胞発生過程における環境因子の影響を示すことが可能となる分化誘導実験モデルとして非常に有用な方法であると考えられる。以上のことから、本年度における研究達成度は、「生殖細胞の獲得が可能となっている」ことから順調に伸展しているとする。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、これまでに蓄積されてきた知見をもとに、さらに誘導段階を進めることで、実際に受精可能な精子の獲得を目指す。また、本法の特徴である自発的な誘導方法を利用し、生殖細胞の発生に関わるシグナル経路に着目し、それらを活性化または抑制する成長因子や阻害剤の検討を実施する。また、生体内での生殖細胞の発生、特に始原生殖細胞の発生においては酸素濃度など生体内の環境が大きく変化していることが知られている。そこで、これらの上述した現象を考慮し、本法で構築した誘導モデルを利用して生体内における酸素濃度や培養温度などの培養環境の変化に着目した生殖細胞への誘導時における影響を明らかにするため研究を実施する。 また、マウスだけでなく、ヒトの前臨床モデル動物であるカニクイザルに焦点をあて、当研究室で樹立されたカニクイザルES細胞をモデルとした生殖細胞の誘導実験を実施し、始原生殖細胞ならびに半数体生殖細胞の獲得を目指す予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では、前年度に引き続いてマウスES細胞から生殖細胞の誘導を行うが、それらに必要な培養液に加え、次年度では新たに成長因子や阻害剤などの購入を予定している。また、半数体細胞の回収を試みるため、FACS解析を利用したセルソーティングを予定している。そのため、それらに使用する特異的マーカータンパク質に特異的な抗体の購入も合わせて検討している。回収された細胞においてはWesternblotやRealtime-PCR、免疫染色を行い、生殖細胞関連遺伝子について検討を行っていくため、それらに関連する試薬も購入する。 また次年度では、生殖細胞の発生において環境因子が与える影響に関する研究を進めるため、環境因子のひとつであるHypoxia inducible factorsまたはHeat shock factorsに着目し、ChIPまたはIPなどを行う予定であるため、これらに関係する試薬の購入を行う。 さらに、次年度ではマウスだけでなく、カニクイザルES細胞の培養を行うため、その培養液や成長因子、サル特異的抗体などの試薬の購入を予定している。
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