研究概要 |
近年,着床前期胚から樹立される胚性幹(ES)細胞を用いた再生医療が急速に進歩しており,着床前期胚発生の分子機構を研究することは,ES細胞の分化多能性の背景にある分子機構の解明にも繋がる.そこでin silico解析により着床前期初期より特異的に発現していると考えられた新規遺伝子Zfp371に着目し,発生及びES細胞における役割を明らかにすることを本研究の目的としている。 まず本遺伝子の着床前期胚における発現解析を行った.RT-PCRおよび免疫組織化学染色により着床前期各ステージ胚及びマウス多組織において発現解析を行った.また転写阻害剤を受精卵の培養液に添加して2細胞期後期まで培養し,mRNA発現量を定量RT-PCRにより観察した.さらに機能解析のため,本遺伝子の第2,3exonを欠失させたノックアウト(KO)マウスを作成し,妊孕性の有無及び着床前期胚発生の観察,さらに胚盤胞からノックアウトES細胞を樹立した.結果はRT-PCRではいずれの成獣臓器でも発現は認められず,2細胞期から胚盤胞期の着床前期胚およびES細胞にのみ発現を認めた.免疫組織化学染色においても着床前期胚で発現を認め,さらに8細胞期及びES細胞では核への局在が確認された. また,転写阻害剤添加により着床前期胚での発現が消失し,胚性に発現する遺伝子であった.したがって本遺伝子は着床前期ステージ特異的に発現し転写因子として何らかの遺伝子発現制御に関わっている可能性が示唆された.KOマウスは成獣まで発生し,生殖能も維持されていた.現在のところ明らかな表現型は得られていないが,核型解析を行ったところ特徴的な染色体構造異常を認めた.またKOマウスの胚盤胞からはES細胞を樹立することも可能であった.
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