研究課題/領域番号 |
23791863
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牧野 初音 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 研究員 (90392498)
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キーワード | 胎盤細胞 / 胎盤血管内皮細胞 / 心筋分化 / 心筋細胞 / 細胞治療 / 心疾患 / 心筋梗塞 / 再生医療 |
研究概要 |
幹細胞は再生医療や細胞移植の最適な対象として期待されている。現在、骨格筋芽細胞、骨髄細胞、内皮前駆細胞による細胞移植が臨床試験中であるが、臨床的に十分な数の心筋細胞と血管の両者を再生する方法は確立されていない。申請者が細胞供給源として着目したのは“細胞を獲得するために健常部の損傷や疼痛を伴うことがない”、“同一種類の細胞が大量に調整できる”、“患者の性別を問わない”、以上の項目を満たす胎児付属物(胎盤、羊膜、臍帯)である。胎盤は上皮細胞増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、インシュリン様成長因子など多様な増殖因子を発現している極めて特殊な組織であり、ヒト生体内において他に類を見ない。このように胎盤は胎児を形作り成長させることに特化している組織であり、多分化能を有する幹細胞が含まれることも報告されている。 本年度、網羅的発現遺伝子プロファイリング解析と細胞表面抗原解析結果を精査した結果、ヒト胎盤細胞の中でも特にヒト胎盤血管内皮細胞は継代を重ねるにしたがってその形態および発現遺伝子が大きく変化させることがわかり、またそれが分化能にも影響を及ぼすことが示唆された。上記細胞の長期培養および継代を継続することは細胞へのダメージが多きく、ひいては本研究へのデメリットが大きいと判断し、in vivoにおける細胞の分化能評価を進めることにした。ヒト胎盤細胞およびヒト胎盤血管内皮細胞の免疫寛容という特性を生かし、in vivoにおける導入細胞の生着、機能発現、組織構築能の検討と腫瘍化能の評価を目的として野生型新生児マウス左心室組織への移植を試みた結果、現時点ではマウス心筋への細胞移植による生着が観察できていない。今後は個体数を増やすだけでなく、移植方法、移植細胞数、移植から屠殺まで観察期間等の検討が必要であるが、ヒト胎児付属物に由来する細胞のヒトへの移植法の臨床的実現化に近づく成果が得られたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画は大きく、1)ヒト胎盤細胞、ヒト羊膜細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞の樹立と特性解析、および目的細胞への分化誘導法の標準化、2)1)で得られた細胞のヒトへの移植法の臨床的実現化、以上の2つの柱からなる。研究期間の後半は2)に関する研究を主体として推進する計画であり、平成25年度に実施する内容は主としてヒト胎盤細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞のin vitroにおける分化誘導法の検討とそれらの細胞に由来するiPS細胞のin vitroにおける分化誘導法の検討であった。 詳細に言えば、本年度は細胞培養系における分化誘導法を決定し、その方法に基づいて作製した細胞のin vivoにおける分化能を評価するために、ヒト胎盤細胞、ヒト羊膜細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞、および分化させた上記の細胞由来のiPS細胞を免疫不全マウスに移植することで導入細胞の生着、機能発現、組織構築能の検討と腫瘍化能の評価を行う予定であった。 しかし、研究実績の概要でも述べたように、本年度の研究過程において現行の培養方法ではヒト胎盤血管内皮細胞をその特性を保った状態で長期培養し継代し続けることは難しいと判断できたため、リスクを回避する目的で、本年度、上記の細胞のin vitroにおける分化誘導法の検討と上記細胞由来のiPS細胞樹立を見送ることを決定した。なお、この計画は今後新規ヒト胎盤検体が入手し、それより新規胎盤内皮細胞株が樹立できた際、継代数の少ない細胞株を用いて実施したいと考えている。 現在保有しているヒト胎盤細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞の特性の理解は進んでおり、本年度in vivoでの評価に力を注いだことは、次年度に計画しているヒト胎盤細胞の個体への投与ルートと移植細胞数等の検討の一部を担ったと考えられることから、本研究は現在までの達成度はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、in vivoにおける導入細胞の生着、機能発現、組織構築能の検討と腫瘍化能の評価を目的として野生型新生児マウス左心室組織への移植を行う。本年度の研究より、個体への投与ルートと移植細胞数、移植から屠殺まで観察期間といった項目に細胞の生着、機能発現、組織構築能の要点があると推測できたことから、この点に着目しながら研究を進めていく。 新規のヒト胎盤検体が入手できた場合は、上記の研究速度をすこし緩め、新規ヒト胎盤細胞、新規ヒト胎盤血管内皮細胞樹立に注力する。特性解析は既存の細胞を用いてすでに行っていることから、新規ヒト胎盤由来細胞についてはその特性解析よりも継代数の少ない細胞株を用いたヒト胎盤細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞由来のiPS細胞およびそのiPS細胞への蛍光遺伝子導入を優先させる。 新規のヒト胎盤検体が入手困難な場合は、ヒト胎盤細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞の生体内における機能評価を目的として、疾患モデルマウスへの移植を検討する。臨床応用を目指すために、将来的にはイヌ、ブタ、ウシといった大動物を用いて機能評価したい。 心筋再生時におけるヒト胎盤細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞の機能評価を目的として、心筋梗塞モデルマウスの梗塞部位への細胞移植を検討する。これによって上記細胞の生体内における分化転換能、血管分化能、心臓構成細胞への分化転換能の評価が期待できるだけでなく、病態に及ぼす治療効果が評価可能となる。評価方法としては、分子生物学的には分化マーカーを用いたリアルタイムPCRと免疫染色、生理学的には心電図検査(ECG)、左室圧測定、組織学的には移植片の免疫染色(fibrosis areaの測定など)を考えている。さまざまな評価方法によって得られた結果を取りまとめることにより、生体内におけるヒト胎盤細胞由来の心筋細胞を多角的に評価したい。
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