幹細胞は多岐にわたる可能性を有し、再生医療や細胞医療の最適な対象として期待されている。本年度までに、ヒト胎盤に由来する細胞が心不全および心筋梗塞の細胞治療の材料として非常に有用であることを示すと同時に、胎盤には成人組織を再生する能力を有する幹細胞や前駆細胞が存在する可能性を強く示唆する結果を得ている。さらに解析を進めていく中で、樹立したヒト胎盤血管内皮細胞を含むヒト胎盤由来細胞の性質は、由来組織および継代数によって異なることもわかってきた。 しかしながら、心筋細胞や血管細胞への高い分化能の可能性をもつ細胞が、胎盤および胎盤血管内皮組織のどこに存在しているのかはいまだ不明である。これらの局在を明らかにし高効率で分取して治療に用いることが、本研究の最終目標である臨床応用への近道であると考え、本年度は材料の確保が有利なマウス胎盤および胎盤血管内皮組織に存在すると推察される前述の細胞の局在を明らかにすることを目標として研究を行った。 マウス胎盤における心筋分化能をもつ細胞の有無を確認することを目的として、まず胎生期マウス胎盤の胎仔に起因する領域由来の細胞とMEF(マウス胎仔由来線維芽細胞)を共培養した結果、心筋細胞特異的遺伝子である心筋トロポニンT陽性細胞が確認できた。この結果はマウス胎盤の胎仔由来の組織に心筋分化能をもつ細胞が含まれていることを示唆するものであった。また、マウス胎盤のラビリンスおよび絨毛膜有毛部において心筋前駆細胞特異的遺伝子陽性細胞が観察された。以上の結果は、心筋分化能をもつ細胞がこれらの領域に局在する可能性を示した本研究によって初めて得られた知見である。 今後はヒト胎盤に含まれる心筋トロポニンT陽性細胞および心筋前駆細胞特異的遺伝子陽性細胞を分取し、最終的にはヒト胎盤に存在する心筋分化能をもつ細胞の特性解析を進めていきたいと考えている。
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