研究課題/領域番号 |
23791873
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
村田 考啓 群馬大学, 医学部, 助教 (10569875)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 神経科学 / 細胞 / シグナル伝達 / 耳科学 / チロシンリン酸化 |
研究概要 |
申請者は内耳組織の定常状態における各種タンパク質リン酸化状態を評価し、特に内耳に特異性の高い分泌タンパクであるCTPのリン酸化状態について検討した。最初に、マウスにおける内耳組織の適切な剖出・組織採取のトレーニングを行った。内耳は側頭骨に囲まれた小さな組織であり成体マウスにおいても体積は10立方mm未満と剖出には実体顕微鏡下において骨包内組織損傷を回避しながらの慎重な操作を要する。申請者は10週齢以上の成体マウスを数匹用いてトレーニングを施行し、内耳組織の剖出が可能な状態になった。今後は、低酸素刺激や耳毒性物質暴露などの負荷実験に際し、内耳組織の短期間組織培養を必要とするため、胎児や新生児マウスの内耳組織剖出を検討していく予定である。 次に、内耳組織が摘出されているかを確認するため、正常マウス(C57 Bl/6)の内耳組織を冷温下に摘出、溶解破砕し、内耳組織に特異性の高いCTPの検出をWestern blottingを用いてタンパク定量後行った。市販の抗CTP antibodyを用いたblottingでは、数本の非特異的bandも検出されるが、controlの海馬組織と比べ62kDaレベルに特異的なbandが認められ、sizeよりCTPであると考えられた。この組織溶液を用いて免疫沈降法によりCTPを濃縮させblottingを行うと同部のbandが特異的に増加した。この結果から、内耳組織は適切に採取されており、細胞外マトリックスに多く存在するCTPの検出が可能であることが確かめられた。この組織溶液を用いて、内耳組織のチロシンリン酸化状態を、抗チロシンリン酸化抗体を用いてWestern blottingで解析した。その結果、pervanadate刺激下でCTPを含む数個のbandでリン酸化の増加が生じており、今後はこのリン酸化タンパクの動態を解析予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の重要な目的である、内耳組織におけるリン酸化シグナルの動態について、マウスの内耳組織を摘出しWestern blottingを用いた生化学的手法により解析する技法や結果が得られたことが大きな成果である。また内耳組織特有のタンパクであるCTPについてもリン酸化刺激によりそれ自身がリン酸化を受けていることから、同タンパクのシグナル伝達経路への関与も推察され、機能自体が未だ解明されていないCTPの機能解明の端緒になる可能性がある。また、内耳組織の摘出後超短期的であるがorgan culture状態での刺激暴露によりリン酸化タンパクのチロシンリン酸化状態が変動を見せたことは、各種内耳障害刺激(薬剤、低酸素など)に対する各種リン酸化状態の変動をin vitroにおいても検知できることとして示唆された。最終的にはマウス本体への内耳毒性物質暴露や音響的障害などによるin vivoレベルでの内耳組織におけるリン酸化状態の変動とそのシグナル伝達経路の解明、それに対するリン酸化阻害剤の効果などへの解明に繋がることが期待される。一方、本研究のもう一つの柱である、細胞間シグナル伝達システムCD47-SHPS-1系の内耳における機能解析についてはまだ十分進んでいるとはいい難い状況である。内耳組織におけるCD47やSHPS-1の発現や局在について生化学並びに免疫組織化学的手法での解析が進んでおらず、今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
上記の結果に基づいて、内耳組織におけるチロシンリン酸化タンパクのリン酸化状態の変動について、今後は摘出内耳組織への短期的な虚血刺激・内耳毒性物質暴露を行い、その細胞組織lysateを用いて抗リン酸化チロシン抗体によるWBを施行し、非刺激時との比較によりチロシンリン酸化状態の変化を評価する。得られた結果を基に、分子量等から変化のあるリン酸化タンパク基質を絞り込み、標的とするタンパク質に対する抗体などによる免疫沈降法での精製やWB等を施行することで、重要なリン酸化シグナル分子の同定を行う。また各種チロシンリン酸化タンパクのリン酸化阻害剤を併用暴露することで各種タンパクのチロシンリン酸化状態がどのように変動していくかを解析し、内耳組織における内耳障害に対するリン酸化シグナル伝達システムの概要を解明していく。一方、CD47,SHPS-1の内耳組織における発現や局在につき、内耳組織lysateを用いたWestern blottingや内耳組織切片を作成し免疫組織染色による局在同定を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記研究計画に基づき、生化学および免疫組織化学的手法を用いた実験を進めていく。そのためマウスなどの動物や各種抗体、薬品素材、Western blottingにおける各種消耗品や組織切片作成時に内耳骨包を脱灰するための溶液などを購入する必要がある。また研究成果の発表や各研究者からのsuggestionなど今後の研究進展における重要な情報を得るための学会発表への出席、論文作成に要する費用なども計上される。平成23年度に使用予定の研究費において、当初の見込額より低額で購入ができたため、残部を平成24年度へ繰り越し上記当該研究費に充てる。
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