内耳障害により惹起されるリン酸化反応の検討を行い、新規標的因子を探る。正常新生仔マウスの内耳組織破砕溶液を用いpervanadate刺激下でのチロシンリン酸化状態をWestern blottingで解析したところ、cochlinを含むと思われる数個のbandでリン酸化の増加が生じていた。Cochlinをコードする遺伝子COCHの変異による遺伝性難聴家系が報告されており、常染色体優性遺伝形式をとるとされている。その聴力像は進行性難聴の形式をとるため、先天的な内耳機能障害といるよりは機能の恒常性維持機構の障害により進行性に難聴を来すことが想定される。この恒常性維持機構の一つとして内耳障害時に何らかの機能を担っている可能性は十分考えられる。また、cochlinタンパクのアミノ酸配列上、典型的なチロシンリン酸化モチーフではないがチロシンリン酸化を受ける可能性のある配列がC末端に存在しており、そこでcochlinのチロシンリン酸化状態について、抗cochlin抗体を用いた免疫沈降法を用いて評価すると、チロシンリン酸化を受けたと考えられるcochlinの増加が認められた。このことから、cochlinのチロシンリン酸化がpervanadate刺激で増加することが明らかになった。今後は、cochlinのチロシンリン酸化と内耳障害との関連について、内耳障害モデル(短期間組織培養下での低酸素刺激や内耳毒性薬剤暴露)を用いたチロシンリン酸化状態の変化について検討することが重要であり、同様に変動を認める場合、内耳組織における障害へのシグナル伝達応答に内耳特異的分泌タンパクであるcochlinが何らかの機能を有している可能性が示唆され、内耳障害への治療の端緒に繋がる可能性を秘めている。
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