研究課題/領域番号 |
23791874
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
高安 幸弘 群馬大学, 医学部, 講師 (70375533)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 虚血 / 前庭神経 / パッチクランプ |
研究概要 |
前庭神経核を含む脳幹のスライス切片をラットを用いて作成し、パッチクランプ法にて前庭神経核の神経細胞の膜電位変化を記録した。電流固定化に自発発火を記録しながら、これが虚血条件として、低酸素低グルコース (Oxygen-Glucose Deprivation; OGD)細胞外液の還流を行った。10分程度のOGD還流で発火頻度の低下が観察された。OGD刺激後、発火頻度は回復を示し、このときの発火特性は刺激前と変化を認めなかった。一方、ODG刺激中に観察された発火頻度の低下は、前庭神経核神経細胞における抑制性入力の上昇で生じうる。前庭神経核に対する重要な抑制性入力は、対側前庭神経核からの交連線維と、前庭小脳プルキンエ細胞からのGABA作動性入力である。従って、次に、ラット小脳虫部のスライス切片を作成し、前庭小脳領域のプルキンエ細胞にパッチクランプを行い、同様にOGD細胞外液を還流させた。まず、プルキンエ細胞を-70mVに膜電位固定し、自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)を記録した。プルキンエ細胞における抑制性入力を抑制するためGABAチャネルブロッカーを常時使用した。sEPSCは短時間のOGD刺激により顕著な増加を示し、細胞外液を生理的な外液に変更すると、ほぼベースラインの状態に回復した。このことから、ODG外液還流によりsEPSCは顕著に増加するが、これは一過性で可逆性の変化であることが分かった。次に、このOGD刺激による反応が、前庭小脳特異的であるのか、あるいは小脳全体の共通した現象であるのかを調べるため、前庭小脳以外の小脳領域で同様の実験を行った。前庭小脳以外のプルキンエ細胞におけるsEPSCは、OGD刺激で若干の頻度の上昇を認めたが、前庭小脳領域の反応に比べ有意に小さかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
椎骨脳底動脈循環不全による眼振を含めた中枢性めまい症状の発生から自然経過での改善に関する病態生理を明らかにすることが本研究の主題である。実験計画では、ラットの脳幹前庭神経細胞において、虚血刺激として低酸素低グルコース (Oxygen-Glucose Deprivation; OGD) 細胞外液の還流を行い、これにより生じる一過性の発火特性変化を明らかにし、次にこれが発生するメカニズムを解析する方針である。今年度の実験では、まず前庭神経核の発火特性の変化を観察する予定であり、この実験では虚血刺激により前庭神経核神経細胞における自発発火の停止が確認された。さらに、プルキンエ細胞から前庭神経核への入力は小脳皮質から強力な抑制性出力であることを考慮し、この前庭神経核における一過性発火停止という現象のメカニズムとして前庭小脳からの入力の変化に着目した。従って、今年度の実験は、次に前庭小脳小脳プルキンエ細胞における一過性虚血における変化をとらえることに主眼を置いた。この結果、このプルキンエ細胞におけるODG刺激による反応として自発性興奮性シナプス後電流の増加が確認できた。これは、プルキンエ細胞における興奮性がODG刺激時に増加することを示し、プルキンエ細胞の興奮性増加は、その軸索出力であるGABA作動性の抑制性出力の増加を意味し、従って、これは前庭神経核における抑制性の増加に寄与する重要なメカニズムとして解釈できる。以上より、今年度の実験計画目標である、前庭神経核神経細胞における一過性虚血時の発火特性の変化を実験的にとらえることと、そのメカニズムの一つを小脳領域で明らかにすることが出来、目標は十分に達成できていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
無酸素無グルコース(Oxygen-Glucose Deprivation; OGD)細胞外液還流による一過性虚血刺激実験では、前庭小脳プルキンエ細胞における自発性興奮性シナプス後電流の増加が観察された。かつ、この現象は前庭小脳領域のプルキンエ細胞に優位に観察される現象であった。前庭小脳領域は、他の小脳領域と異なる線維連絡を持ち、また発生学的、形態学的にも他の小脳領域と多少異なる性質を持つ。研究担当者はこれまで、前庭小脳領域特異的なコリン作動性苔状線維入力について研究を行い結果を論文で報告している。そこでは、コリン作動性刺激により、前庭小脳領域のプルキンエ細胞における自発性興奮性シナプス後電流の増加が観察された。これは、シナプス前細胞である顆粒細胞における自発発火が増加したことが原因であり、顆粒細胞におけるムスカリン受容体を介したカリウムチャネルの抑制を介していた。従って、今後の研究の推進の方策として、本年度明らかになった前庭小脳の一過性虚血時の興奮性変化に着目し、そのメカニズムを詳細に明らかにしていくことを考える。まず、OGD刺激時の前庭小脳プルキンエ細胞の興奮性入力の増加に対し、顆粒細胞のムスカリン受容体の活性化が、何らかの関与があるかを薬理学的に検討する。一方、一過性虚血時における興奮性の増加が、グルタミン酸トランスポーターの抑制を介した細胞外グルタミン酸の貯留を背景に生じることが、海馬などのその他の中枢神経系で明らかになっている。この点にも着目し、OGD刺激時にグルタミン酸受容体を介した興奮性の上昇が生じているかを実験的に検討する。以上により、今後は、前庭中枢に関わる神経細胞の機能的な部分において一過性虚血時の興奮性上昇のメカニズムを解明することを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、パッチクランプ実験用の精度の高い電流増幅器を備品として購入したため、実験記録は概ね滞りなく可能になった。ただ、一部の薬理学実験が間に合わずに、平成24年度に持ち越しとなった。これに伴い、実験に使用予定の薬剤の購入を平成23年度から平成24年度に持ち越しになり、このため、平成23年度において次年度繰越額が生じた。よって、これを加えて、平成24年度は、実験の継続に必要な動物や薬品などの実験消耗品の購入に主に研究費を使用する予定である。実験動物も、これまで同様にラットを使用する予定である。 また、これまである程度の研究結果を得ており、国際学会に参加、発表行うことで専門的な意見を聞き、今後の研究の発展に役立てる予定である。神経科学系の最も大規模な国際学会は毎年アメリカで開催される北米神経科学会であり、そこでは毎年2万人以上の研究者が全世界から集まり専門分野に関して研究結果を議論する。従って、本年度はこれまでの本研究結果をまとめ、北米神経科学会で発表する予定である。北米神経科学は5日間の会期であり、会場までの交通費および学会期間中のアメリカ滞在費など、国際学会参加に伴う旅費として本年度の研究費の一部を使用予定である。
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