これまでと同様、実験系として、前庭神経核を含む脳幹のスライス切片を、ラットを用いて作成し、パッチクランプ法にて前庭神経核および小脳皮質の神経細胞より膜電位変化を記録した。虚血条件として、低酸素低グルコース (Oxygen-Glucose Deprivation; OGD)細胞外液の還流を行った。前庭神経核の神経細胞では、10分程度のOGD還流で発火頻度の低下が観察された。ODG刺激中に観察された発火頻度の低下は、前庭神経核神経細胞における抑制性入力の上昇で生じうる。従って、次に前庭神経核に対する重要な抑制性入力として、前庭小脳プルキンエ細胞からのGABA作動性入力に注目した。前庭小脳を含む小脳スライス切片を作成し、実験を進めた。パッチクランプ法にて前庭小脳領域のプルキンエ細胞より電気記録を行った。前庭小脳領域のプルキンエ細胞では、低酸素低グルコース (Oxygen-Glucose Deprivation; OGD)細胞外液を還流により、自発性興奮性シナプス後電流(spontaneous excitatory postsynaptic current: sEPSC)の増加が観察された。このOGD刺激による反応は、前庭小脳領域のプルキンエ細胞で顕著であり、その他の領域では明確ではなかった。従って、そのメカニズムとして前庭小脳特異的な分布を示す興奮性介在ニューロンであるunipolar brush cell (UBC) による興奮性変化が想定された。UBCは外部入力がない条件下でも自発発火をしている興奮性介在ニューロンである。今後の展開として、小脳スライス切片を作成し、このUBCを電流固定し、OGD外液を還流させ、自発発火の変化を観察する予定である。これは、プルキンエ細胞におけるsEPSC増加の直接的な要因としての解明に寄与すると考える。
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