ウイルス性嗅覚障害の病態生理に関する報告はほとんどなく、その詳細は不明である。本研究ではウイルスに対する宿主免疫応答に伴う2次的な自己組織の傷害に焦点を当て解析を行った。ウイルス感染の免疫モデルとして使用されるPoly(I:C)を3日間マウスに点鼻投与した。初回点鼻後3日目の時点で嗅上皮に好中球、マクロファージ、リンパ球などの炎症細胞浸潤を認め、成熟嗅神経細胞は上皮から脱落、変性し、9日目には成熟嗅神経細胞数は著明に減少していた。そして約1ヶ月で嗅上皮の再生が認められた。 次にPoly(I:C)の受容体であるToll-like receptor 3 signal pathwayの活性化を調べるため下流のシグナル分子であるphospho-IRF3の発現をウエスタンブロットにより、転写因子であるphospho-NF-κBの発現を免疫組織染色により確認した。また最終産物の1つである好中球遊走因子MIP-2の発現亢進をELISAで確認した。 Poly(I:C)点鼻投与による嗅上皮傷害は均一ではなく、特に好中球浸潤の強い部位で傷害が著明であったことから宿主免疫応答の中で好中球が主要な組織傷害因子であることが推察された。好中球と嗅上皮傷害の関連性を確かめるため、①エラスターゼの経鼻投与により嗅上皮が傷害されること、②好中球減少モデルマウスにおいて嗅上皮傷害が抑制されること、③好中球エラスターゼ阻害薬により嗅上皮傷害が抑制されることを示した。これらの結果からウイルス感染時の宿主の過剰な免疫応答を抑制することで嗅上皮傷害が予防される可能性が示された。
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