従来からメニエール病の病態は内リンパ水腫であるとされているが、確定診断は側頭骨病理による以外なく、実際の患者の診断の際に苦慮することも少なくない。現在我国では厚生省特定疾患前庭機能異常研究班のメニエール病診断基準(1974年)が用いられているが、この診断基準では、めまいの反復や難聴の随伴など臨床症状が中心であり、メニエール病の病態である内リンパ水腫とは直結しておらず、補助診断であるグリセオールテストや蝸電図は間接的に内リンパ水腫を証明する検査にすぎず、実際に内リンパ水腫を確認することは困難であった。 本研究では、希釈した造影剤(ガドリニウム)を経鼓膜的に中耳に注入し、24時間後にMRIを撮影することにより、正円窓を通過し、外リンパ腔に移行したガドリニウム分子を描出することにより蝸牛内の状態を把握し病態を明らかにする研究を実施した。特にガドリニウム分子はライスネル膜は通過できず、内リンパ腔には移行しないために、外リンパ腔と内リンパ腔が区別され描出されるため、内リンパ水腫があると拡大した内リンパ腔は透亮像として確認できる。本研究では研究期間を通じてメニエール病患者を対象に、従来の内リンパ水腫推定検査であるグリセオールテストや蝸電図などの間接的証明法を行い、内リンパ水腫の陽性率を求め、画像診断の陽性率と比較検討した。その結果、グリセオールテストの陽性率は55%、蝸電図は60%で両者を組み合わせると75%であった。これらの陽性率は、過去の報告と比較しても妥当なものである。それに比べ、本手法のMRIを用いた画像診断では95%と陽性率が高く、内リンパ水腫を同定するには非常に有効な検査であることが示唆された。また、メニエール病の治療薬であるイソソルビドの投与により内リンパ水腫が改善する所見も得られており、今後治療効果の判断のための診断にも応用可能であることが示唆された。
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