研究概要 |
我々は糖尿病による加齢性難聴への影響を調べるために、まず糖尿病モデルマウスを作成した。C57BL/6Jマウス8週齢オスを用いた。30匹をランダムに2群に分け、コントロール群 n=15, 1型糖尿病モデル群 n=15 。メスはエストロゲンが食事による肥満に影響を与えることから今回はオスのみを使用した。1型糖尿病モデル群はストレプトゾトシン(STZ)を100mg/kg body weight腹腔内に2日連続で投与した。コントロール群へは生理食塩水0.2mlを2日連続腹腔内に投与した。それぞれの群で投与開始から1ヶ月、3ヶ月、5ヶ月まで n=5ずつ飼育し、血糖、体重、聴力を測定した後に蝸牛を摘出した。聴力閾値変化の測定にはABR (Auditory brainstem Response)を用いた。刺激音には4, 8,16,32kHzのトーンバースト音を用い、刺激音を5dBステップとし、256回加算した。1型糖尿病モデル群の平均血糖値は、ストレプトゾトシン投与後1ヶ月392mg/dl、3ヶ月540mg/dlであり、コントロール群の122mg/dl、109mg/dlと比べて有意に上昇していた。糖尿病モデルマウスの作成は安定して可能となた。次に聴力閾値の検査では、糖尿病モデル作製後1ヶ月の時点では4kHzにおいて1型糖尿病モデルでコントロール群と比べ平均6.3dBの閾値上昇を認めたが、その他の時期及びその他の周波数では聴力閾値に有意差を認めなかった。このことから、5ヶ月までの時点では糖尿病そのものは加齢性難聴に対して大きな影響を与えていないと考えられた。しかし、5ヶ月モデルに強大音響を曝露したところ、コントロールよりも糖尿病群では内耳障害からの回復に遅れがみられた。また形態的にラセン神経節細胞の減少を認めた。これらより糖尿病の内耳では音響に対する易受傷性があると考えられる。
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