研究課題/領域番号 |
23791905
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
村上 大輔 九州大学, 大学病院, 特別教員 (80568965)
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キーワード | 経口免疫療法 / スギ花粉症 / スギ抗原-ガラクトマンナン / 経口免疫寛容 |
研究概要 |
2012年度は、人数を増やし、また経口免疫治療のプロトコールを一部変更し臨床試験を行った。プロトコールは、安全性を高めるため免疫治療の導入期間を設け、また治療効果を高めるため維持治療期間を30日から50日(スギ花粉症の飛散1か月前から飛散ピークが終わるまでの期間)に延長した。 臨床試験は、封筒法オープン比較試験で適応条件を満たすスギ花粉症成人患者47名(経口免疫治療群23名、薬物治療群24名)に対し施行した。Primary endpointは、total symptom-medication scoreとし、Secondary endpoint は、QOL score, VAS、有害事象(CTCAEに基づいて評価)とし経口免疫療法群、免疫治療を受けない従来の薬物治療のみの群と比較し、臨床効果、治療の安全性の検討を行った。経口免疫療法は、スギ花粉飛散時期より約1ヶ月前(2010年1月初旬)より開始し、18日間の導入期間(少量から開始し、維持量まで漸増)を設け、その後維持量:スギ花粉症蛋白(Cryj1:175μg)-ガラクトマンナンカプセル 4Cap 2×/日で50日間連続内服投与を行った。その結果は、2011年度と同様に短期間の免疫治療であったが花粉飛散期におけるTotal symptom-medication score、QOL score, VASは、経口免疫治療群で有意に低下し、スギ花粉症に対するスギ花粉症蛋白-ガラクトマンナンを用いた経口免疫療法が有効であることを改めて明らかにした。また、減感作維持期間中の有害事象(CTCAEに基づいて評価)については、17%(23名中4名grade1 3名、grade2 1名)と2011年度の約30%と比較して維持期間中の有害事象の発生率は低く抑えられた。grade3以上の有害事象は認めず、安全な治療法であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度は、2011年度に引き続き、計画通り人数を増やして新規経口免疫寛容剤であるスギ花粉症蛋白-ガラクトマンナン複合体を用いてスギ花粉症患者に対する臨床試験を行い、新規経口免疫寛容剤の治療効果、安全性を検証できた。また有害事象の軽減と治療効果を高めるため経口免疫療法のプロトコールの変更を行うことで安全性と治療効果を期待通り高めることができた。さらに2012年度は、経口免疫療法1年目の患者と2011年度より引き続いて免疫療法を受ける免疫療法2年目患者を比較することで経口免疫療法の上乗せ効果についての検討とホコリ、ダニなどの通年性アレルギーを合併するスギ花粉症患者においての経口免疫療法の効果についても検討しており、結果については今後学会発表を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
スギ花粉症に対する薬物治療と免疫療法の根本的な違いは、治癒が見込めるかどうかである。皮下免疫療法においては3年から5年治療を継続したのちに治癒に至る症例も経験するがスギ花粉症蛋白-ガラクトマンナンを用いた経口免疫療法については、不明である。そこで2013年度は、経口免疫療法の効果が持続するかどうかをオープン試験で検討する予定である。比較検討を行うのは、2011年、2012年の過去2年スギ花粉症蛋白-ガラクトマンナンを用いた短期間の経口免疫療法を受けた群、2012年の過去1年短期間の経口免疫療法を受けた群、さらに2013年新規に経口免疫治療を受ける群で3群においてTotal symptom-medication scoreを比較し、治療効果を検討する。 またさらに2011年度、2012年度の結果からヒトにおいて短期間に(わずか1か月で)スギ花粉症の経口免疫寛容が誘導できることが明らかになったことは、腸管の免疫寛容について研究するための動物モデルにおいても応用可能であることを示している。つまり、従来からあるスギ花粉症マウスモデルにこの新しい経口免疫寛容剤を用いることでヒトと同様に短期間に免疫寛容を誘導できることを実証すればヒトでは解析しにくい腸管での免疫寛容の機序をあきらかにするための新しいマウスモデルとなり、非常に有用である。臨床試験と並行して新規経口免疫寛容剤を用い、スギ花粉症マウスモデルに対して経口免疫寛容が誘導できるかを並行して検討する。 加えて研究のエビデンスレベルを上げるためには今後はRCTが必要である。そのための体制づくりや民間資金の獲得のためこれまでの結果を学会や論文として発表し広報する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度1月から5月における臨床研究に対する研究協力者への研究協力金、外部検査機関への支払いに60万円、研究成果発表目的での学会発表の旅費に30万円、データ解析のため人件費に10万円、動物実験のための物品費に100万円を予定している。
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