研究課題/領域番号 |
23791924
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
西村 忠己 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (60364072)
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キーワード | 骨導 / 外耳道閉鎖症 / 補聴器 |
研究概要 |
補聴器を実用化するための大きな問題点の1つとして振動子の出力および消費電力の問題がある。さらにどの程度の出力を出すか、周波数特性をどのように設定するかなどの補聴器の調整についての問題がある。振動子についてはこれまで圧電振動子を用いてきたが消費電力が大きく電池の減りが早く実用化が難しかった。そこで本年度は消費電力で優れている電磁型振動子の開発を行った。複数の試作補聴器を作成し、それぞれの出力、消費電力、大きさを比較することで、実用化に耐えうる振動子を決定した。補聴器の調整については、調整するソフトを作成する上で最も問題となるのが、軟骨伝導閾値の正常値がわからないことである。このためどの程度の難聴であるのか、利得をどうすればよいのかといったことが決定できなかった。そこで聴力正常者を対象に軟骨伝導閾値を求め、それを基準値とし軟骨伝導閾値を評価した。さらに得られたデータを基に軟骨伝導補聴器を調整するソフトを作成した。これらの成果により、臨床の場で軟骨伝導補聴器をフィッティングしその効果を評価できる環境を整えることができた。 軟骨伝導補聴器の最も効果が期待できる症例は外耳道が軟組織で閉鎖している例である。これらの症例での軟骨伝導の音の伝導経路について解明するため、外耳道内を水で満たすことで閾値がどのように変化するかの検討を行った。その結果軟骨の振動が外耳道内の軟組織を経由し耳小骨に振動が伝わることが聞こえに重要であることが分かった。そこで実際の外耳道が閉鎖している症例で軟骨伝導閾値と閉鎖組織の関係を見てみると、軟組織と耳小骨が接続している例で閾値が低いことが分かった。これらの結果は軟骨伝導補聴器の適応を決定する上で役立つと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の目標として軟骨伝導補聴器を実用化するための問題点である振動子と調整方法について改良することを上げていた。研究成果の概要でも示したように、振動子の問題については様々な試作振動子を作製し検討した結果、実用に耐えうる性能をもつ振動子の開発ができたと考えている。さらに調整方法については、調整するための前提となる軟骨伝導閾値の正常値の設定を行った。それを基に軟骨伝導補聴器の調整に用いるフィッティングソフトの作成を行った。このことから昨年度の研究目標についてはおおむね実施することができたと考えられ、当初の予定通りに進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で作製した軟骨伝導補聴器がどの程度効果があるのか、実用化するために今後修正をしなければいけない部分は何かを明らかにする。臨床試験として試作補聴器を協力していただける難聴者にフィッティングし、その時の効果を評価する。評価は聴力検査やアンケートを用いて行う。試作補聴器は実際に貸し出し、日常生活でも使用していただきその効果を見極める。補聴器の効果が既存の補聴器と比べて優れているのか劣っているのかを明らかにするため、気導あるいは骨導補聴器のフィッティングも行い、その効果についても評価する。その結果から軟骨伝導補聴器の効果の評価や適応について検討する。このような臨床試験を行うことで現時点では明らかでない問題点、例えば調整作業、補聴器の装着、耐久性についてなどが明らかになってくる可能性がある。それらのデータを蓄積することで、将来的な補聴器の実用化につながる結果を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
試作補聴器を臨床試験として評価する際の費用に充てる。補聴器の試聴していただく研究協力者の謝金に用いる。それらの結果から補聴器の修正が必要な点が明らかになれば可能な範囲改良を加えるための費用に用いる。さらにこれまでの研究成果を国内外の学会で発表を予定しており、また英文誌への投稿を予定している。学会発表のための旅費、英文校正のための費用、投稿料などにも使用する予定である。
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