研究概要 |
遺伝性難聴は約1,600出生に1人と高頻度に発症し聴覚と言語発育障害の極めて高度なQOLの低下をもたらす。遺伝性難聴の根本的治療法は未だ存在しないが、我々は骨髄間葉系幹細胞を使って蝸牛線維細胞損傷モデルの聴力を改善させることに成功している。本研究では我々の開発した細胞移植法を応用し、遺伝性難聴の中で最も高頻度に発生するコネキシン26遺伝子の欠損モデルマウス(Cx26cKO)の聴力回復実験により新規治療法を開発することを目的とした。内耳への移植細胞として骨髄間葉系幹細胞、人工多能性幹(iPS)細胞由来内耳前駆細胞を用いた。移植細胞は半規管の外リンパ液還流法によって内耳に投与し、聴性脳幹反応(ABR)によってモニタリングした。蝸牛組織への幹細胞誘導(ホーミング)因子をRT-PCR法により発現遺伝子解析し、免疫染色により外側壁中心部における発現細胞を同定した。遺伝子発現解析により蝸牛組織から分泌されるホーミングリガンド因子としてMCP1およびSDF1が同定された。移植幹細胞においても培養上清中にMCP1、SDF1を一定の条件で加えることによりこれらの受容体CCR2、CXCR4(ホーミング受容体)の発現を大きく上昇させることに成功した。この方法でCx26cKOマウスにおけるホーミングリガンドと移植細胞のホーミング受容体を同時に惹起して内耳細胞移植を行ったところ蝸牛への細胞導入効率が約4倍上昇した。これを応用し生体組織におけるホーミングリガンド分子と移植細胞のホーミング受容体因子を同時に惹起することにより、遺伝性難聴モデルへの幹細胞導入効率は大幅に上昇することが示された。同方法を発展させることにより多量の多能性幹細胞を蝸牛組織内へ誘導させ、これまで不可能であった遺伝性難聴の聴力改善への可能性が示唆された。
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