わが国でも数十万人いると推測されている高度感音難聴に対する治療は耳鼻咽喉科領域では最も重要なテーマであるが実際の治療はきわめて困難である。人の内耳を直接生検することや侵襲的な生理学的検査は困難であり、有用な動物モデルを用いての検討は発症機序の解明や根本的治療の確立に極めて重要である。 現在、動物モデルは主にマウスが用いられているが、小動物であるため内耳への薬物投与は困難とされてきた。我々はマウス内耳に侵襲を最低限に抑えて投与できる方法の開発に取り組んできた。また、我々が検討した結果、遺伝性難聴モデルマウスでは出生直後は蝸牛コルチ器の変性は軽度であり、成長に伴い変性が進んでいく。したがって、変性が軽度のうちの治療が効果的である。我々は過去の報告にはない生後24時間以内のマウス蝸牛への遺伝子導入をアデノ随伴ベクターを用いて低侵襲に注入できる外リンパ腔への投与で内リンパ腔への遺伝子発現を認め、これを紙上と学会にて報告した。我々のこの投与法では十分にしかも聴力を下げることなく低侵襲で内リンパ腔へ導入効率を高く投与できる。これは様々な内耳疾患モデルマウスに応用でき、将来のヒトの内耳への薬物投与・遺伝子導入に貢献するものである。 現在遺伝子欠損マウスにその遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイルスベクターを導入しその検討を行っている。成体の遺伝性難聴モデルマウスに欠失遺伝子を導入し、遺伝子の発現に成功したが、支持細胞への発現は認めず、聴力の改善は認めなかった。出生直後のマウスに投与したところ、支持細胞への発現を認め、聴力の改善を認めた。また、形態学的にも蝸牛コルチ器の変性を軽度に抑えることができた。今後はさらに詳細な検討を予定している。
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