研究課題/領域番号 |
23791953
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
木村 百合香 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (40450564)
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キーワード | 老人性難聴 / 血管条 / 蝸牛外側壁 / ミトコンドリアDNA / レーザーマイクロダイゼクション / 免疫染色 / ヒト側頭骨病理 |
研究概要 |
老人性難聴の病理組織学的解析は、Schuknechtらにより感覚細胞性、蝸牛神経性、血管条性、基底板振動障害性の4つのタイプの形態学的解析分類がなされている。一方、近年、ミトコンドリア(mt)DNA変異と老人性難聴の関連が指摘されている。mtDNA3243変異は、MELASを生じる変異として知られているが、糖尿病と感音難聴のみを呈する場合も多く、糖尿病の数パーセントに本変異が存在する。そこで、本年度は、mtDNA3243点変異を有するMELAS症例の側頭骨病理学的検討を行った。(対象)症例は68歳女性。糖尿病、脳梗塞、心不全、高度難聴を合併していた。(方法)20%中性ホルマリンで6ヶ月の固定の後、2年間のEDTA脱灰を経て、一側はセロイジン包埋による組織学的解析を、もう一側はパラフィン包埋を行いレーザーマイクロダイゼクション法を用いて、機能単位別のmtDNA変異率を測定した。(結果)血管条の著明な萎縮(全回転)、内外有毛細胞の高度消失(全回転)、中等度から高度のラセン神経節細胞の消失が認められた。レーザーマイクロダイゼクション法を用いた機能単位別のmt3243DNA変異率測定の結果、有毛細胞2.2%,ラセン神経節細胞26.6%,血管条2.4%であり、ラセン靱帯では変異を認めなかった。(考察)血管条はmt 3243変異率が低くても障害を生じやすく、ラセン神経節は蝸牛内では変異率が高くまた障害されやすいと考えられた。老人性難聴において、Schuknechtらの報告によれば、血管条障害は高音漸傾型感音難聴を呈することが知られており、このようなパターンを呈する糖尿病合併例の感音難聴の場合は、mtDNA点変異も視野においた検索が重要である。 また、前年度までの研究成果がHearing Research誌にAcceptされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、ヒト側頭骨病理標本を用いて前期高齢者・超高齢者間でのcochlinをコードするCOCHmRNAの蝸牛外側壁における定量解析を行う予定であったが、ホルマリン固定パラフィン包埋切片におけるmRNAの保存が悪く、定量解析方法の確立を行っている状況である、 次年度以降も引き続き定量解析方法の確立を模索する予定である。 一方で、新たにmtDNA解析による老人性難聴の病態解析を開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、レーザーマイクロダイゼクション法とTaqManPCR法を用いた蝸牛外側壁におけるCOCHmRNAの定量解析方法の確立を検討する。その後、 cochlinには4つのisoformがあるが、ラットの内耳では成獣でp63の増加が認められることから、ヒトにおい て加齢とともに変化するCOCH mRNAに関し、どのisoformに発現の変動があるかを検討を行う。 また、近年miRNAによる遺伝子発現の制御がトピックとなっており、難聴においてもその関与が報告され始めている。そこで、本年度より開始した、mtDNA解析と、mRNA 解析とあわせてヒト蝸牛外側におけるmiRNAの動態の解析方法に関しても検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
レーザーマイクロダイゼクション法とTaqManPCR法を用いた蝸牛外側壁におけるCOCHmRNAの定量解析方法の確立を目的とし、これらの試薬の購入と、あわせてmiRNA解析法の検討に用いる試薬を購入する。 また、これまでの研究成果の発表と情報収集のための学会参加・論文作成にかかる英文校正、図書購入に研究費を充てる。
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