研究課題/領域番号 |
23791956
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
石羽澤 明弘 旭川医科大学, 大学病院, 医員 (50516705)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | シェアストレス / 網膜血管内皮 / 網膜血流 |
研究概要 |
ヒト網膜微小血管内皮細胞(HRMECs)をガラス板上に培養のうえ、平行平板型流れ負荷装置を用い、層流のシェアストレス (0 ~ 100 dyne/cm2)を負荷し、細胞の形態と機能的変化を検討した。 形態的変化としては、静的状態で多角形で無作為な配列しているHRMECsは、シェアストレス負荷により、シェアストレスの大きさ、負荷時間に依存して流れと平行に配向し、紡錘形に伸展した。 機能的解析として、リアルタイムPCR法で、一酸化窒素合成酵素(eNOS)、エンドセリン-1(ET-1)、トロンボモジュリン(TM)のそれぞれの遺伝子発現を定量化した。eNOSのmRNAの発現はシェアストレスの増加とともに増加し、網膜細動脈レベルのシェアストレス(60 dyne/cm2)でほぼ飽和した。またET-1のmRNAは、高いシェアストレスでは著明に抑制され、一方でET-1 mRNAは低いシェアストレス(1.5 dyne/cm2)では発現が増加していた。TMのmRNAはシェアストレスの増加に伴い、直線的に増加した。 以上の結果から、網膜細動脈レベルの生理的に高いシェアストレスでは、網膜血管内皮細胞は血管拡張性に働き、また抗血栓性にも寄与している可能性が示唆された。網膜血管には、大動脈(15 dyne/cm2程度)など他の臓器の血管よりも高いシェアストレスがかかっていることがこれまでの研究から明らかとなってきており、本研究の結果から、網膜循環の生理的状態を捉える上で重要な知見が得られたと考えられる。 また、我々は低いシェアストレス、つまり血流低下による低灌流時の網膜血管内皮への作用を検討し、炎症性サイトカインや接着分子、凝固因子などの遺伝子発現の増加を確認した。この結果から、低いシェアストレスは網膜血管内皮細胞に炎症促進的に働き、病的循環障害における血管障害の一因となっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記に記した、網膜血管内皮における、生理的に高いシェアストレスの効果の報告は、Investigative Ophthalmology & Visual Scienceに2011年8月に受理され、11月に掲載された。またこの内容に関しては、第116回日本眼科学会総会特別講演にて、吉田晃敏教授にて発表がなされた。また、低いシェアストレスの効果は、2012年5月にフロリダ州フォートローダーデール市で開催されたARVO2012にて発表した。これらの研究結果は2012年7月にドイツ、ベルリン市で開催されるISER2012にて、Transformation of Mechanical Stimuliのセッションでシンポジストとしての発表予定である。一方、病的状態における網膜血管内皮細胞へのシェアストレスの効果、つまり高グルコース負荷下や最終糖化産物負荷下での変化での効果は、まだ十分な結果は得られておらず、本年も引き続き検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、病的状態での網膜血管内皮細胞のシェアストレスによる細胞機能変化の検証を行う。具体的には、灌流液に高濃度グルコースを含有させ、高血糖状態を擬態して流れ負荷を行う。また、最終糖化産物(AGE)による内皮障害モデルとして、灌流液中にAGEを負荷した上で流れ負荷を行う。更に炎症性サイトカインであるTNF-αを灌流液中に負荷し、流れ負荷を行い、慢性炎症循環を擬態する。 次に、シェアストレスによる内皮細胞応答を改善させる薬剤、つまり内皮保護作用のある薬剤の探索を行う。これまでに我々は薬剤を直接網膜血管に負荷するブタの摘出血管を用いたex vivoの実験により、高脂血症治療薬スタチン、フェノフィブラート、赤ワイン含有ポリフェノール・レスベラトロール、糖尿病治療薬チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン)、が網膜血管を拡張させることも確認した。この実験系から得られた内皮保護作用を有する薬剤を培養細胞系の灌流液中に負荷し、流れ負荷を行うことで、シェアストレス存在下での内皮保護作用の詳細な分子メカニズムを検証予定である。更に、上記実験から得られた内皮保護作用のある薬剤の生体での効能は、ネコを用いたin vivoの実験で検証できる。具体的には、ネコにスタチンやピオグリタゾンを前投与し、全身麻酔下で全身循環を安定させた状態で、血管内皮障害作用のあるTNF-αの硝子体注前後の網膜循環動態の変化をレーザードップラー眼底血流計を用いて測定する。このように培養細胞を用いたin vitroの実験から、摘出血管を用いたex vivo実験、ネコを用いたin vivoの実験に至る全ての系での、トランスレーショナルリサーチを通じて有効性が明らかとなる薬剤を検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度の研究費により、実験に必要となる特殊機器の購入はできた。本年度はさらに多くの細胞、培養培地、実験薬剤を使用することになるため、これら消耗品購入のために研究費を使用する。さらに、得られた研究成果を国内・国際学会発表、論文発表などで世界に発信するため、旅費および論文校正・掲載料が必要となる。
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