研究課題/領域番号 |
23791982
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
相馬 剛至 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (70582401)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 角膜移植 / フェムトセカンドレーザー |
研究概要 |
角膜内皮障害により角膜混濁をきたし視力が著明に低下した症例には全層角膜移植手術がおこなわれる。しかし、ドナー角膜とホスト角膜の縫合が必要なため、術後の不正乱視による視機能低下や感染症の発生といった危険性がある。本研究では、近年臨床にも用いられ始めたフェムトセカンドレーザーを用いて、角膜をスクリュー型に切開する無縫合の全層角膜移植の開発を目的とする。具体的には、スクリュー型切開による角膜移植を家兎・水疱性角膜症モデルに施行し、組織学的検討ならびに角膜形状解析、角膜厚測定を行う。これにより創傷治癒や免疫反応を組織学的に検討するとともに治療効果に関する知見を得る。。本年度は、まずフェムトセカンドレーザーIntraLaceFSにおけるスクリュー型角膜切開のプログラム構築を行った。プログラミングにあたっては、共同研究者であるAMO社の開発部と協力した。スクリュー型については、これまでの知見よりフランク角30度、ネジ山高1mmが妥当であると考えその構築を進めているが、本機器は既に市販品であり、変更したプログラムの組み込みには機器の根幹システムの変更を要するため、来年度にかけて継続して進めていく。また、家兎における水疱性角膜症モデル作製を行った。具体的には、正常家兎の内皮細胞をデスメ膜ごとで剥離する方法と冷凍凝固を用いて経角膜的に角膜内皮細胞を障害する方法を行った。上記処置を施した家兎は角膜厚が800~1000μmと正常家兎角膜厚約300μmと比較して肥厚し、角膜は混濁しており、水疱性角膜症のモデルの作製に成功した。加えて、作製したモデルに対し組織学的検討を行ったところ、角膜実質の肥厚および層構造配列の乱れおよび炎症細胞の浸潤を認め、水疱性角膜症と矛盾しない結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画であるフェムトセカンドレーザーIntraLaceFSにおけるスクリュー型角膜切開のプログラム構築については、専門的な知識を有する共同研究者であるAMO社の開発部と協力して行い、スクリュー型切開におけるネジ山の高さ、フランク角度などの条件について、プロトタイプのプログラムの構築ができたことから、計画はおおむね順調に進展していると考える。本プログラムを市販品である本レーザーの基幹システムへの組み込みを継続して進めている。また、本年度は正常家兎の内皮細胞をデスメ膜ごとで剥離する方法と冷凍凝固を用いて経角膜的に角膜内皮細胞を障害する2つの方法を用いて、家兎における水疱性角膜症モデルの作製に成功した。我々は角膜移植を初めとした角膜手術について豊富な臨床経験を有し、さらにフェムトセカンドレーザーを用いた角膜移植をすでに臨床にて開始しており精通している。このことから、スクリュー型角膜切開プログラムの構築および組み込みが完了すれば、速やかに水疱性角膜症モデル家兎への移植実験を施行することが可能である。移植後の不正乱視測定を目的とした角膜形状解析ならびに治療効果判定のための角膜厚測定についても、臨床の角膜クリニックにおいて日常的に使用している機器であり、豊富な経験およ知見がある。加えて、移植後の組織学的検討においても、申請者が屈折矯正実験を施行した角膜における組織学的検討で培った技術を用いて行うことが可能であり、またすでに水疱性角膜症モデルにおける組織学的検討は本年度に行っていることからも計画はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
構築したスクリュー型角膜切開プログラムのフェムトセカンドレーザーへの組み込みを行ったのち、まず家兎においてドナーおよびホスト角膜の両者で角膜切開を施し、最適な条件を決定する。移植にあたってはまず正常家兎角膜に移植し、短期的に角膜接合部からの漏出がないか、離開しないかについて検討する。その後、本年度に作製した水疱性角膜症モデルに本切開方法を用いて角膜移植を行い、角膜形状解析、角膜厚測定を行う。角膜形状解析についてはTMS-4により、術後における不正乱視を測定し移植角膜片の組織適合を検討する。角膜厚についは、SP-100を使用する。加えて、移植角膜の組織学的検討を行う。具体的にはHE染色および免疫組織化学にて創傷治癒や白血球、マクロファージ、リンパ球など免疫細胞の浸潤について検討する。また、走査型および透過型電子顕微鏡にて観察し、ドナーおよびホスト移植の接着構造について検討する。加えて、移植角膜の組織学的検討を行う。さらに、術後早期と移植後の長期間観察後の検討結果を踏まえて、フェムトセカンドレーザーによる角膜切開法についての条件を最終的に確立する。また、すでに報告されているフェムトセカンドレーザーを用いた種々の角膜移植(トップハット型、マッシュルーム型、ジグザグ型)を行い、我々のスクリュー型切開法との組織学的な比較を行う。さらに、研究用アイバンク眼を用いてヒト角膜における有効性を検討する。これらの動物実験およびヒト角膜における検討にて有効性が確立された後、倫理委員会へ申請し臨床試験の準備を行う。本方法で用いるフェムトセカンドレーザーはすでに臨床で用いられており、倫理委員会への申請、承認のプロセスは円滑に進行すると考える。大阪大学医学部における承認を得た後に臨床試験を行い、水疱性角膜症患者への安全性、有効性を確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度はフェムトセカンドレーザーによるスクリュー型切開を用いた角膜移植を、正常家兎ならびに水疱性角膜症モデル家兎に行う予定であり、実験用家兎(50匹)の購入費として40万円を計上する。加えて水疱性角膜症モデルの作製並びに角膜移植に用いるメスや注射針、シリンジ等の手術器具、また眼内潅流液、眼科手術用粘弾性物質、副腎皮質ステロイド薬、抗生剤等の薬剤費として40万円を計上する予定である。組織学的検討に必要な試薬の購入に20万円を計上する。家兎に対する実験に加えて、ヒト角膜を用いた組織学的検討を行うため、研究用アイバンク眼(10眼、50万円)の購入を予定している。次年度は国内、国外学会での発表を予定しており、学会発表費として30万円を計上する。加えて、論文作成の準備および発表費として15万円を計上する。なお、フェムトセカンドレーザーは共同研究を行うAMO社のものを使用するため使用料は不要である。
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