トランスサイレチン (TTR)の遺伝子変異が原因である家族性アミロイドポリニューロパチー (FAP)は、肝移植の導入により劇的な生命予後の改善を得たが、眼症状の進行は抑制できず、特に続発緑内障はきわめて難治であり、患者のquality of lifeを大きく脅かしている。また、最近我々は、原発緑内障患者の房水のプロテオーム解析により、房水中のTTRが有意な酸化修飾を受けている予備データを得た。本研究計画では、TTRの遺伝子変異または酸化修飾という二つの側面に着目し、緑内障の二つの病型、FAP続発緑内障および原発緑内障のそれぞれにおけるTTRの役割の解明に取り組んだ。 FAP続発緑内障に対する線維柱帯切除術後に高頻度に生じる濾過胞のencapsulationのメカニズムを解明するため、培養ヒト結膜線維芽細胞を用いてin vitro実験を行った。まず、結膜ヒト線維芽細胞自体がTTRを産生していないことを確認した。次に、TTRを様々な程度にアミロイド化させ、アミロイド化したTTRを培養系に添加し、ヒト結膜線維芽細胞の生存率、形態の変化について検討したが、生理的なTTR濃度では特に有意な所見を認めなかった。そこで、ラットの結膜下にPoly-HEMAで包埋したTTRアミロイドを長期間留置したところ、軽度な炎症を惹起する可能性が示唆された。今後、詳細なメカニズムを検討していく予定である。 また、原発緑内障の病態における酸化型(Cys結合型)TTRの意義の解明に関しては、さらに臨床サンプルを集め検討を行ったところ、やはり原発開放隅角緑内障眼ではmTTR濃度は有意に高く、有意に酸化を受けていることが明らかになり、現在論文準備中である。
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