研究課題
1.低酸素刺激が可溶型Flt-1産生を抑制するシグナル伝達経路の解明 低酸素刺激による可溶型Flt-1産生の特異的な抑制が、選択的3’端プロセシングを介して制御されていることを明らかにしてきたが、可溶型Flt-1 mRNAの分解が亢進しているかどうかは不明であった。そこで、ヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)を低酸素刺激下でactinomycin D処理し、膜型および可溶型Flt-1 mRNA量を定量的RT-PCRで測定したところ、両者に分解速度の差は認められなかった。したがって、可溶型Flt-1特異的な産生抑制は選択的3’端プロセシングを介していることが裏付けられた。さらに、通常酸素濃度と低酸素下でのmRNA発現変動を調べるためマイクロアレイ解析を行った。低酸素刺激で発現上昇しているRNA結合タンパク質(5種類)をHMVEC細胞に過剰発現させ、Flt-1の発現を定量したところ、可溶型Flt-1の特異的な抑制は認められなかった。2.可溶型Flt-1過剰発現およびノックダウンレンチウイルスベクターの作製 内皮マーカーであるCD31およびFlk-1陽性細胞として単離したマウス血管内皮細胞からのRNAを用いて、可溶型Flt-1 cDNAを過剰発現用レンチウイルスベクター(System Biosciences)にクローニングした。可溶型Flt-1の発現を特異的に抑制するため、可溶型Flt-1にのみ存在するイントロン13の配列に結合するshRNAをデザインした。16種類のノックダウン用レンチウイルスベクターを過剰発現ベクターととともに293T細胞にトランスフェクションし、マウス可溶型Flt-1の発現を定量したところ、4種類の配列で60-70%の発現抑制が認められた。したがって、イントロン13の配列に対するshRNAが可溶型Flt-1発現の抑制に十分機能することが明らかとなった。
3: やや遅れている
可溶型Flt-1産生制御の分子メカニズムの解明については、可溶型Flt-産生の抑制を選択的3'端プロセシングの段階で制御しているRNA結合タンパク質が単離できていない。RNA結合タンパク質の単離は制御メカニズム解明の第一段階であることから、平成23年度中を計画していたが、やや遅れているといわざるをえない。これについては、制御配列および3'端切断部位周辺に結合するタンパク質の種類が非常に多いと考えられ、なかなか絞り込むのが難しいことが原因であると考えており、単離方法の検討が必要である。 可溶型Flt-1過剰発現およびノックダウンマウスの作製については、マウス作製まではできておらず、レンチウイルスベクターの作製に留まっていることから、こちらもやや遅れていると言える。これについては、可溶型Flt-1を特異的にノックダウンするためのターゲットとなる配列が112塩基ととても短いことから、効果的に発現を抑制するshRNAをデザインすることが非常に難しかったことが原因である。
1.可溶型Flt-1産生制御機構の解明 RNA結合タンパク質の単離が重要であるため、合成RNAに結合するタンパク質として単離を試みる。具体的には通常酸素濃度と低酸素濃度(2.5%)で培養した血管内皮細胞から核抽出液を調製し、合成RNAに結合してくるタンパク質のうち両者で異なるタンパク質を解析する。RNA結合タンパク質が同定できれば、低酸素刺激による可溶型Flt-1産生の制御機構の解明が飛躍的にすすむことが期待できる。2.可溶型Flt-1過剰発現および可溶型Fkt-1特異的ノックダウンマウスの作製 レンチウイルスベクターが作製されたことから、今後は受精卵感染法におよるトランスジェニックマウスの作製と解析に注力する。マウスが出生しない場合はその原因を解析するとともに、マウス子宮外発生法にに切り替えて解析を行う方針である。
平成24年度支払予定金額は600,000円である。うち物品費は550,000円を予定しており、分子生物学実験の試薬類、プラスチック器具、細胞培養用培地に400,000円、実験用動物に150,000円を予定している。また、旅費として日本生化学会参加に50,000円を予定している。
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