目的:脂肪酸の代謝系である脂肪酸β酸化系は、エネルギー産生に加え脂肪酸の細胞傷害に対する解毒機能としても重要である。網膜は全身組織の中で例外的に、脂肪酸β酸化能がないと言われてきた。本研究では「ミュラー細胞はエネルギー源として脂肪酸を代謝す る。その代謝産物を網膜神経細胞に渡し養う。」この仮説を証明することを目的としている。 計画:網膜ミュラー細胞、神経節細胞の2種の培養細胞の栄養代謝能を、脂肪酸β酸化能を中心に調べる。さらに、2種の細胞の栄養代謝における相互作用を調べる。初代培養細胞を用いて解析を行い各細胞の特性を調べるとともに、不死化細胞を作製し、細胞間の相互作用を調べる計画である。 成果:ミュラー細胞の初代培養系の確立に時間を要したが、ほぼ純粋なミュラー細胞の培養系を確立できた。脂肪酸代謝能の解析は研究協力者の協力により順調に進み、遺伝子発現解析、酵素蛋白検出、in vitro probe assayといったミュラー細胞の脂肪酸β酸化能を証明する実験により、ミュラー細胞に脂肪酸β酸化能が存在することが示された。また、ケトン体代謝酵素の存在も確認でき、ケトン体代謝能も持つことが確かめられた。細胞の不死化については十分な結果が得られなかったため、継続して実験中である。網膜神経節細胞の純粋培養は困難であったため、代替として大脳の神経細胞の初代培養系を用いて神経細胞の特性を調べた。培養ミュラー細胞と同様の解析を行った結果、神経細胞は極わずかの脂肪酸β酸化能を持つことが確かめられた。 これらの結果は、網膜のエネルギー産生機構について新しい知見を提示できると考えている。ミュラー細胞と神経細胞の脂肪酸β酸化能とケトン体代謝能の特性について論文として発表準備中である。
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