研究課題/領域番号 |
23792024
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研究機関 | (財)東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
木村 敦子 (財)東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (60569143)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 神経変性 / Dock3 / 脱髄 / 神経細胞死 / オリゴデンドロサイト |
研究概要 |
23年度は育児休業のため、多くの研究作業が停止した状態が続いた。しかしながら、そのような状況において国際雑誌であるJornal of Neuroscieceなどに共著論文が掲載された。掲載論文の内容は以下の通りである。 Dock3はアルツハイマー病の原因遺伝子産物であるPresenilinに結合する新規タンパク質として発見された。その後の解析から、Dock3はRac1を活性化するグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)であり、アクチン細胞骨格の重合を制御して軸索伸長に影響を与えていることが明らかとなった。 軸索の伸長に深く関わる細胞骨格としては、 アクチン骨格の他にチューブリン分子によって構成される微小管が知られている。 アクチン骨格は成長円錐の細胞膜近傍で機能するが、 微小管は神経軸索内部で束化した状態で存在しており、 その重合状態が軸索の伸長に影響を与える。セリン/スレオニンキナーゼであるグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(glycogen synthase kinase-3β、 GSK-3β)はCRMP-2のリン酸化を介して神経極性を制御することから、 軸索伸長メカニズムへの関与が推定される。 最近になってGSK-3βはDock3と細胞膜上で複合体を形成し、 AktによってSer9部位がリン酸化され不活化されることがわかった。 このDock3を介したGSK-3βの不活性化はCRMP-2に加えてadenomatous polyposis coli(APC)の活性化を誘導しており、 微小管の重合促進による軸索伸長効果を示した。 Dock3によるアクチン細胞骨格の重合にはGEF活性が必要であったが、 GSK-3βを介した微小管重合においてはGEF活性が関与しないことも判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
育児休業により多くの研究作業が停止したため、「研究の目的」の達成度がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は中枢神経系におけるDock3の詳しい分布を検討する中で、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)と成熟オリゴデンドロサイトにもDock3が発現することを見出している。したがってDock3はOPCの分化や、オリゴデンドロサイトの保護にも関与する可能性がある。オリゴデンドロサイトを主座とする脱髄疾患のモデル動物としては実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスが有名であり多発性硬化症の研究に広く利用されている。しかし神経症状の重症度や再髄鞘化の程度が個体によって異なるという欠点があることも事実である。一方銅キレート剤であるcuprizoneの経口投与は主に脳梁において、オリゴデンドロサイトの代謝障害による一次性脱髄を引き起こし、かつ休薬によりほぼ一定期間にミエリンが再形成されることから、定量的な解析を行いやすい脱髄・再髄鞘化のモデルと考えられてきた。そこで本研究ではcuprizoneによる視神経脱髄モデルを利用して、Dock3によるミエリンの保護や再髄鞘化の促進が可能か検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
<動物購入・飼育費> 本研究で使用するDock3過剰発現マウス・緑内障モデルマウスなどの維持・飼育費用は、研究者自らが用意しなければならない。<組織学実験用試薬> 緑内障モデル動物、およびcuprizone誘発性急性脱髄動物モデルの病理学的な検討には、多種類の抗体および試薬、組織学用消耗品が不可欠である。<細胞培養用品> OPC初代培養細胞作成には様々な栄養因子・液性因子等の添加を要するとともに、シャーレなどのプラスチック消耗品や培地血清類を多量に消費することが予想される。<生化学実験用試薬> 細胞死関連因子等の解析には定量的PCR、Westernblot、ELISA法などを行うが、その際に複数の試薬や抗体が必要となる。
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