研究課題
ヤツメウナギは幼生では哺乳類と同様に胆汁酸やビリルビンを含む胆汁を、胆管を通じて腸管へ分泌し消化吸収に役立てているが、変態期に毛細胆管から総胆管にいたる全て胆道を完全に消失する。そして胆管消失後にも胆汁鬱滞性肝障害を生じることなく数年間成長し繁殖する。本研究では秋田に繁殖するヤツメウナギを研究の対象とした。 23年度研究計画(1)に述べたように、ラジオアイソトープで標識したコレステロールをヤツメウナギの背部に走る静脈から注射し、経時的に血清および各器官(肝臓、腎臓、鰓、腸、筋肉、心臓)を採取して放射能を液体シンチレーションカウンターで定量し、胆道閉鎖の状態でどの器官が胆汁成分を処理しているのか解析した。結果として、生体において肝臓がコレステロール代謝を担い、代謝産物は鰓や腎臓より排泄されている可能性を明らかにし、この結果をCholestasis(2011)に執筆した。 続いて研究計画(2)として、上述の実験で胆道閉鎖の状態で胆汁成分を処理しているのが明らかになった器官(肝臓)におい哺乳類の胆汁酸合成の律速酵素cholesterol 7-αhydroxylase (CYP7A1)と相同な遺伝子の全長cDNAをクローニングし、RT-PCR、ノーザンブロッティング法にて臓器や各成長段階ごとの発現量を解析した。 本研究の最終的な目標はヤツメウナギ成体における胆汁酸排泄機構の解明であり胆道系の閉塞があっても肝細胞をsalvageする方法を見出しヒト胆汁鬱滞性疾患の治療にも応用しようとするものである。今年度の結果は最終目標達成のための着実な一歩となっている。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の(1)、(2)について順調に進展したが、遺伝子クローニングに難渋し当初平成23年度計画としていた目的遺伝子の強制発現やノックアウトによる機能解析は達成できていないので、進展の速度は当初目標を達していない。しかし、最終的に目的遺伝子の取得に成功し、当初計画を現在も進行しており内容は順調であるといえる。
ヤツメウナギの捕獲量は年々減少しており、幼生、成体とも捕獲可能な季節は限られているため、23年度に行った実験は継続する。平成23年度の実験で得られた胆汁酸合成酵素の機能を解析する。またさらに胆汁酸に対する核内受容体の配列をヤツメウナギ肝臓より得る。それらの結果をふまえヤツメウナギ独自の新規胆汁酸処理機構を担う因子の取得を試みる。具体的には、胆道系の有る時期の幼生と、胆道系を消失した若年成魚の肝臓からmRNAを抽出しDifferential display もしくはSubtraction法やマイクロアレイの手法によって両者で発現の異なる遺伝子を同定する。得られた候補因子に関してその塩基配列を決定し、ヒトの相同遺伝子を検索し、その機能を類推する。新規胆汁酸処理機構を担う可能性のある遺伝子が取得できた場合、その発現を免疫組織化学、ウエスタンブロッティング法、in situ hybridization法、ノーザンブロッティング法を駆使して解析するまた、平成23年度は新たにヤツメウナギを採取せずに、当初予定の実験系買うを遂行することができたため、「次年度使用額」が生じた。これについては次年度のヤツメウナギ捕獲にかかる費用に充てる予定である。
本研究を遂行するための設備、大型機器はいつでも利用できる状況にあるため設備備品費は計上しない。研究費は主に免疫蛍光試薬や生化学分析用試薬、制御酵素試薬購入のための消耗品費として使用する。また、ヤツメウナギを捕獲、飼育するための費用を計上する。さらにヤツメウナギ捕獲のための調査、研究打合わせ国内旅費、英文論文投稿のための英文校閲費と投稿料を計上する。
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