研究概要 |
脂肪細胞移植法は形成外科領域において組織増量による形態改善を目的として行われる有用な方法である脂肪移植はドナーの豊富さ・安全性・移植後形態の自然さ(Bucky, Aesthet Surg J 2008)から、今後ますます応用領域が広がることが確実である。しかし、移植の問題点として、生着率が20-40%程度(Tremolada, Cell Transplant 2010)と低く、成績が不安定な点がある。このことは、臨床上、適応を拡大するうえで重大な障害であり、この問題を克服するために世界中で様々な基礎研究が行われている。 これまでに我々は、低酸素下で血管内皮細胞がアクアポリン-1を発現し、血管新生作用を有することを明らかにし(Microvas Res, 2008)、移植脂肪細胞が避けることができない初期のの移植環境が悪い低酸素状態での、脂肪細胞アクアポリンが重要な役割を果たしている可能性を考えた。 我々は倫理委員会の承認の下、ヒト腹部皮下組織から採取した脂肪組織から分離した天井培養由来増殖性脂肪細胞および脂肪組織由来幹細胞がともに、アクアポリン-1を発現する一方でアクアポリン-7を発現しないことを見出した。ヒト腹部皮下脂肪由来の天井培養由来増殖性脂肪細胞および脂肪組織由来幹細胞がともに低酸素下でアクアポリン-1の発現を上昇させるが、その程度は脂肪組織由来幹細胞の方が強いことを明らかにした。次に、移植脂肪細胞ドナーとしての適格性を明らかにするために、ヒト腹部皮下脂肪組織の浅層と深層それぞれから分離した脂肪細胞のアクアポリン-1を計測したところ浅層脂肪細胞で発現が強くみられた。ヒト腹部皮下組織は深層の方が結合組織が柔らかくドナー採取しやすいが、移植生着に関連するアクアポリン-1は浅層脂肪細胞の方が多く、浅層と深層どちらが移植ドナーとして適格かはさらなる解析を要すると考えられた。
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