研究課題/領域番号 |
23792040
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 光子 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (20541965)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | ケロイド / non-coding RNA / FOXL2 / コラーゲン |
研究概要 |
我々はゲノムワイド関連解析によりケロイドと遺伝的素因との関連を証明しており、現在同解析により同定された疾患感受性遺伝子の発現・機能解析研究を行い、本疾患の予防・治療法の確立を目指している。まず、疾患感受性候補領域の中でデータベース上遺伝子登録のない領域に関しては、ダイレクトシークエンス法を用いて候補領域の全塩基配列解析を行い、十数個の疾患関連候補多型を同定している。次に領域内のEST配列をもとにノザンブロット解析を行った結果数種の異なる長さのmRNAの発現が認められた。さらにRACE法によりmRNA配列全長の特定を試みたところ、共通配列を有し3’末端配列が異なる数種のバリアントが存在するnon-coding RNAと考えられる遺伝子の存在を確認している。このことはケロイド形成においてこれまで報告されていない未知の遺伝子が関与している可能性を示唆するものであり、同遺伝子の機能を解析することでケロイド発生機序の解明の一助となる可能性が考えられる。また、他の候補領域に存在するFOXL2は疾患感受性候補遺伝子の一つであり、正常皮膚組織およびケロイド組織から抽出・作成したcDNAを用いた定量的RT-PCRでは、ケロイド組織におけるmRNAの高発現が認められた。また、線維芽細胞株を用いた細胞増殖能の検討では、FOXL2蛋白の一過性過剰発現では増殖能に有意な変化は認められなかったが、SiRNAオリゴヌクレオチドを用いてFOXL2の発現を抑制することで細胞増殖抑制効果が認められた。さらに、FOXL2を抑制することで、線維芽細胞株におけるコラーゲン蛋白の産生が減少することから、FOXL2がケロイド形成におけるコラーゲン産生に関与している可能性が考えられ、創傷におけるFOXL2の発現とコラーゲン形成経路への関与を明らかにすることで新たなケロイド治療薬の標的になり得る可能性が考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、患関連多型近傍に既知の遺伝子が存在しない領域においては、当初の予定通りダイレクトシークエンス法による塩基配列解析およびジェノタイピングが終了している。また、同領域内の転写産物情報をもとにノザンブロット法、RACE法での解析を施行し、スプライシング配列、PolyA配列を有する新規候補遺伝子の存在を確認している。また、他の候補領域に存在する遺伝子については、遺伝子近傍の塩基配列解析が終了しており、エクソン上に蛋白置換を伴う疾患関連多型を同定している。現在多型と転写効率やタンパク結合能への影響等を検討しているところである。以上の結果は当初予定していた研究計画に沿ったものであり、今後のケロイド治療の一助となり得る可能性が考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今回新たに同定した新規候補遺伝子に関しては、まずその全塩基配列の同定を行う。次に、全ての候補遺伝子に関してその機能を明らかにするために、培養細胞を用いて多型と発現量の相関・蛋白合成の有無・関連経路の検索等を行う。また、同定されたタンパクが細胞毒性に与える影響を評価するために、同タンパクの強制発現系及び発現抑制系にて細胞レベルでの毒性評価を行う。さらに、臨床組織検体を用いてケロイドと正常皮膚における遺伝子発現量や局在の変化を比較検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1. cDNAライブラリーの作成;今回同定した新規遺伝子に関して、すでに数種類の3’末端配列の同定を行っているが、未だ5’末端の配列が確認できていない。今後、さらなる解析を行うためには、まず同遺伝子の全配列を明らかにする必要があることから、オリゴキャッピング法を用いたcDNAライブラリーの作成を行いmRNAの全配列を明らかにする。2.培養細胞株を用いた遺伝子発現変化の検討;培養細胞において候補遺伝子の発現抑制あるいは過剰発現時に生じる他の遺伝子の発現変化をcDNAマイクロアレイを用いて検討を行う。これにより、未知の遺伝子が制御あるいは関与していると考えられる遺伝子/経路の検索を行う。3. Ruciferase assay;疾患関連多型と遺伝子の転写活性を制御するプロモーター/エンハンサー/サイレンサーの活性や作用する転写調節因子の影響を調べるためにRuciferase Assayを行う。4. In vitro translation assay;特定されたmRNAの塩基配列からタンパクの合成が行われているかを検討るするため、In vitro translation法を用いてタンパクの合成を試みる。もし、タンパク合成が確認された場合には、同タンパクへの抗体作成を行い、免疫沈降法を用いて共役タンパクの解析を行う。5. 細胞毒性・コラーゲン産生能への検討;候補遺伝子の発現抑制・あるいは過剰発現系での培養細胞への毒性・コラーゲン産生能への影響をMTTassyおよびWestern blotなどを用いて検討する。
|