ゲノムワイド関連解析で同定された領域内のEST配列をもとにノザンブロット解析を行った結果、数種の異なる長さのmRNAの発現が認められた。さらにRACE法により同遺伝子のmRNA全長配列の特定を試みたところ、一部共通配列を有するが、5'あるいは3’末端配列が異なる数種のバリアントが存在する遺伝子の存在を確認した。同遺伝子内に明らかなORF構造が認められなかったことから、同遺伝子群はlong non-coding RNA(lnc RNA)であると考えられた。本遺伝子のケロイド形成への関与を検討するため、まず正常皮膚組織およびケロイド組織から抽出・作成したcDNAを用いて定量的RT-PCRを行い両者の遺伝子発現量の比較を行ったところ、ケロイド組織において同遺伝子の高発現を認めた。このことから、本遺伝子の発現上昇がケロイド形成に関与している可能性が示唆された。そこで線維芽細胞株を用いてSiRNAオリゴヌクレオチドによるlnc RNAの発現抑制を行い、細胞増殖能の変化を検討した結果、lnc RNA発現抑制群において細胞増殖抑制効果が認められた。さらに、5種類の細胞株を用いてlnc RNAの発現抑制時の遺伝子発現パターンの変化をマイクロアレイ解析にて検討したところ、lnc RNAの発現を抑制した群において、wntシグナル経路を抑制する遺伝子の発現が上昇し、またAKTシグナル経路を促進する遺伝子の発現が抑制されることを発見した。このことは、lnc RNAがこれらの経路を介して細胞増殖やコラーゲン等の細胞外マトリクスの生成に関与している可能性を示唆するものであると考えられた。 lnc RNAは蛋白を生成せず、直接他の遺伝子や蛋白に働きかける遺伝子である。そこで、本遺伝子の発現を抑制することでケロイド形成の予防が可能となり、新たなケロイド治療の標的になり得る可能性が示された。
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