研究課題
まず、siRNAトランスフェクション法を用いてRhoを阻害、Rho kinase阻害剤(Y27632)10μMを用いてRho kinaseを阻害し、皮膚線維芽細胞の遊走能力に及ぼす効果についての解析を行った。500μmの溝gap(仮想の創傷)を作成し、gap size、細胞の移動速度をコントロール群、阻害群でそれぞれ計測した(wound healing assay)。Rho阻害では、コントロール群と比較して、6h・12h・24hで明らかな有意差は認めなかった。しかし、Rho kinase阻害群ではコントロール群と比較し、gap sizeの縮小、細胞の移動速度において有意な促進を認めた。 さらに、タイムラプス顕微鏡システムを用いて、リアルタイムで細胞が溝gapに向かって遊走し、埋めていく様子を観察した。Rho kinase阻害群では線維芽細胞の形状がダイナミックに変化することで、細胞遊走速度が上昇することがわかった。 次に、Rho/Rho kinaseのシグナル伝達経路を解明するために、Rho/Rho kinaseの標的分子であるcofilinの活性化の状態と線維芽細胞遊走との相関について調べた。siRNA法により、cofilinを阻害しwound healing assayを行ったところ線維芽細胞の遊走が著明に阻害された。また、Rho kinase阻害によってcofilinの活性化(western blottingで解析)が認められたことから、Rho kinase阻害による線維芽細胞遊走の促進のメカニズムにおいてcofilinの関与が示唆された。 創傷治癒において線維芽細胞の遊走は非常に重要な因子である。したがって、今回の実験結果をさらに発展させ、応用することで難治性皮膚潰瘍の新たな創薬が期待できる。この点において本研究の意義があり、かつ重要性が存在する。
2: おおむね順調に進展している
研究計画書に記したH23年度の研究計画は次のとおりである。1)皮膚線維芽細胞の遊走におけるRho/Rho kinaseの役割を解析する。siRNAや阻害剤を用いてRho/Rho kinaseを阻害し、wound healing assayを行い、コントロール群とRho/Rho kinase阻害群で、創傷のsize、線維芽細胞の遊走速度を比較する。2)Rho/Rho kinaseの創傷治癒におけるシグナル伝達経路の解明を行う。western blotting、wound healing assayを用いてRho/Rho kinaseの標的分子であるcfilinの活性化と皮膚線維芽細胞の遊走との相関について明らかにする。 これらの計画は先に述べたとおり、H23年度内にすべて遂行できており、意義のある結果を見出せた。したがって、本研究目的の達成度については順調に進展している。
H24年度は糖尿病モデルマウス皮膚潰瘍におけるRho kinase阻害剤の有効性を検討する。11週齢の糖尿病モデルマウス(BKS.Cg-Dock7m+/+Leprdb)を用いて、両側背部に1個ずつ直径1cm大の皮膚欠損を作成する。これに対して左をコントロール群として生理食塩水、右にはRho kinase阻害剤(1mg/ml)を皮膚欠損部周囲にそれぞれ合計0.4ml(10mg/kg)皮下注射を行い、潰瘍面積をそれぞれ計測する。 さらには、H.E.染色、免疫組織染色法を用いてRho kinase阻害剤が糖尿病モデルマウスの線維芽細胞に与えている影響を明らかにする。具体的には、Rho kinase阻害剤を投与後、5日目、10日目、15日目の背部皮膚をサンプルとして採取する。線維芽細胞のマーカーである抗vimentin抗体を用いて線維芽細胞を免疫染色、およびH.E.染色を行う。これにより、コントロール群と比較して線維芽細胞が遊走してきている程度を明らかにできると考えられる。以上から、糖尿モデルマウスの創傷治癒においてRho kinase阻害剤の有用性を明らかにする。
H24年度の研究費使用計画予定は以下のとおりである。各種抗体(RhoA, Rho kinase, vimentin等 /150,000円)、Rho kinase阻害剤(90,000円)、Gradient gel(50枚/100,000円)、糖尿病モデルマウス(20匹/260,000円)、ガラス器具、ディッシュ等(200,000円)、研究結果発表費用(150,000円)、論文校正など(50,000円)である。
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