再生医療において細胞が立体的な構造物を作るように誘導するためには、スキャフォールドが必要である。安全な生体組織の再生のために、動物由来成分を含まず、コラーゲンと同等以上の生体適合性と力学的特性の検討が可能なスキャフォールドの開発が求められていた。その素材として注目されたのが、“自己集合性ペプチド”である。自己集合性ペプチドは、20アミノ酸残基程度のペプチドで、水中ではβシート構造を取り、それらが会合してナノファイバーを形成する。このナノファイバー同士が絡み合い、ゲルとなる。この自己集合性ペプチドゲルを皮膚創傷に用いることにより、創傷治癒が促進されると期待されている。 岡山大学では、中性領域で強い力学的強度を保持できる自己集合性ペプチドゲル(SPG-178)の開発に世界で初めて成功した。従来の自己集合性ペプチドゲルはpHを酸性に保つ必要があり、周辺への細胞傷害性が指摘されている。 本研究では、主に止血作用についての研究を行った。平成23年度は実験動物としてまずラットを用いた。肝臓をメスで切開し出血させ創内にゲルを滴下し、止血されるまでの時間を測定した。その結果、数秒で止血が完了することが判明した。また、止血のメカニズムを解明するため、止血直後の出血面を透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、ゲル内のナノファイバーがネットワーク構造を形成している事が判明した。このネットワークが出血面を覆うため止血するものと考えられた。平成24年度はミニブタを使用して実験を行った。小動物だけではなく大動物でも止血効果を発揮する事、肝臓のみならず皮膚や海綿骨などでも十分な止血効果を有する事などが判明した。
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