研究概要 |
本研究の目的は、癌細胞に対する間葉系幹細胞の生体内動向について動物実験を通して検証するものである。具体的には培養増殖させた扁平上皮癌細胞株とヒト脂肪組織幹細胞を実験動物に移植し、腫瘍化の生起について、ヒト脂肪組織幹細胞が影響を及ぼすかどうかを検証した。 実験方法としては、既に報告されている癌細胞移植モデルを応用し(Karnoub AE, et al Nature 2007)、 扁平上皮癌細胞をヌードマウス腹部皮下に移植した。同時にヒト脂肪組織幹細胞を次の要領で移植した。実験群として、実験群1:扁平上皮癌細胞単独移植、実験群2:扁平上皮癌細胞及び脂肪組織幹細胞を同部位へ混合移植、実験群3:それぞれの細胞を他部位(左右腹部皮下)へ移植、実験群4:扁平上皮癌を皮下移植し、さらに脂肪組織幹細胞を静脈内投与、を準備した。移植12週まで肉眼的観察を実施し、腫瘍径を各群間で比較検証した。 結果、実験群1(癌細胞のみ)と様々な方法でヒト脂肪組織幹細胞を投与した他群との間では、腫瘍の生起に関する有意差を認めなかった。 近年、間葉系幹細胞を用いた細胞治療が数多く報告され、臨床研究へと発展する手法もみられるようになってきた。特に脂肪組織幹細胞は比較的簡便に細胞採取が可能であり、臨床応用しやすい特徴を有しており、脂肪組織幹細胞を用いた硬組織再生等にも注目が集まっている。しかしながら、幹細胞投与は既存の治療法以上の組織再生効果を有し高い有効性が期待されている反面、いかに安全面に配慮し臨床研究等を進めていくかも重要である。本研究はそのような背景から脂肪組織幹細胞が扁平上皮癌細胞に与える影響、とくに腫瘍化の生起について検証した。今後の課題として、移植細胞数を増加させた場合等の検証作業が必要と考えられるが、有効性のみならず安全性を確保するための多角的な基礎研究はより重要と考えられた。
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