背景:敗血症性ショックは、過度の血管拡張がもたらす持続的な低血圧状態であり、血圧の維持に難渋する場合が多い。血管拡張の原因物質は、高度な炎症の結果発現した誘導型一酸化窒素合成酵素によって作り出される過剰な一酸化窒素である。過剰な一酸化窒素存在下ではカテコラミン類の感受性が低下し、有効な昇圧作用を得るためには多量に投与する必要がある。しかし、カテコラミン類の多量投与は副作用を引き起こす可能性が高くなるため、より効果的な昇圧薬の開発が期待されてきた。本研究では、敗血症性ショック状態からいち早く離脱するための薬剤として、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素阻害薬の利用に着目した。ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素阻害薬は、ミオシン軽鎖のカルシウムイオン感受性を上昇させ、平滑筋に対し直接的な収縮作用を示すことが知られている。 目的:トートマイシンおよびカリクリンAを用いて血管収縮性への影響を検討した。また全身性に投与した場合の血行動態への影響を観察した。 方法と結果:具体的には、ラットから摘出した大動脈を利用した血管リングを用いて、血管収縮作用を調べた。特にカリクリンAは、濃度依存性に強い血管収縮作用を示した。一酸化窒素の供与体であるニトロプルシドナトリウム存在下でも血管収縮作用を認めた。ラット生体モデルにおける血行動態への影響を調べるため、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素阻害薬を経静脈的に投与したが、いずれも血圧の変動は認めなかった。リポ多糖類によって誘発したラット敗血症性ショックモデルにおいても、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素阻害薬投与による血行動態変動は認めなかった。 考察:これらの結果より、一酸化窒素過剰状態である敗血症性ショック時において、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素阻害薬が有効な昇圧薬として機能する可能性が示唆された。しかし、生体レベルでの影響は観察されておらず、さらなる検証が必要であると考えられた。
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