研究概要 |
我々はグレリンのPPARγ増強作用を介した細胞死抑制効果に注目し、実験を行った。分化型THP-1細胞、ヒトMacrophageにLPSを投与後72時間、糖濃度の異なる培養液で培養を行い、細胞内及び培養液のサイトカイン濃度(IL1b, IL6, IL8, IL10, TNFa)、HMGB-1、HSP70濃度、アポトーシス(細胞内Akt, p38MAPK リン酸化/Total(比)変化の定量、細胞内ミトコンドリア膜電位変化、Bcl-xl, Bcl-2/Bax, Bak発現比の解析、Caspase 3, 9)、オートファジーの発現(細胞内LC3-2/1比, Beclin1発現、細胞内PI3K, mTOR activity、mTORのリン酸化/Total(比)変化定量)について観察し、LPS及び高糖濃度負荷が及ぼす細胞内情報伝達系と細胞死の関係を解析し、さらにPPARγアゴニストとしてのグレリンによる抑制効果を解析した。 研究結果として明らかになったことは、LPS及び生理的な高糖濃度負荷により、単球系細胞内のAktのリン酸化が抑制されることで、細胞死変化が促進されると共に、ファゴサイトーシスが抑制されたが、グレリン投与により細胞内PPARγ活性が上昇し、その変化が抑制された。 次に、細胞内情報伝達系のPI3K/Akt経路を抑制する目的でAkt1に対するsiRNAを単球系THP-1細胞、ヒトMonocyte/MacrophageにNucleofection法により遺伝子導入することで、先に観察したグレリンにおける細胞死抑制効果がどのように変化するかを観察した。実験結果として、Akt1 をノックダウンすることでグレリンの効果が消失した。従って、グレリンは、PI3K/Akt経路を介して細胞死抑制及びファゴサイトーシス促進していることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究途中で、我々はmiRNA 定量的PCR Array (Taqman Array MicroRNA Card, Applied Biosystems社)を用いた予備実験により、高血糖またはLPS刺激による単球系細胞の経時的な変化において、miR-21, miR-155, let7-a, let7-e の発現と、貪食能低下及び細胞死の増加に相関関係がある可能性が示唆されたため、これらのmiRNAの生体内の発現を制御することで、敗血症における生存率改善が図れるとの仮説の元、今年度は、実験を行う予定にしている。具体的には以下の実験プロトコールを組んでいる。 濃度の異なる溶液を用いた細胞培養実験にてLPS投与後の、THP-1細胞、Monocyte/MacrophageにおけるmiRNAの発現変化を観察し、貪食能や細胞死に関連するタンパク質のmRNAと相補的な配列を持つmiRNAの候補をデータベースで探索すること。また、候補に上がったmiRNA mimicを遺伝子導入することや、特異的な阻害薬のanti-miRを投与することで、貪食能低下、細胞死の変化を観察すること。また、グレリン投与により以上の変化がどのように修飾されるかを観察し、グレリンの炎症促進効果のメカニズムについて解明する予定にしている。
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