人工呼吸は患者の換気や酸素化が不十分な時に用いられるが、この人工呼吸による肺の過膨張(過伸展)が肺傷害を引き起こす、または既存の肺傷害を増悪させる場合があることがわかってきた[人工呼吸誘発肺傷害(VILI)]。VILIメカニズムの解明とVILIを予防する人工呼吸の設定を最終目標とし、本研究ではin vitroの培養細胞伸展システムを用いて、機械的伸展が肺動脈血管内皮細胞に与える影響を明らかにする。遺伝子発現及びサイトカイン産生の時系列解析によって、機械的伸展からサイトカイン産生に至るシグナル伝達経路を同定し、人工呼吸が肺障害を引き起こす過程の遺伝子発現経路を予測する。H23年度の研究から、過膨張模擬ひずみを単独で細胞に加えると、炎症性物質産生(IL-6タンパク)は有意に増加することが示されたので、H24年度の研究では、臨床においてVILIの危険性を減らすと言われている呼気終末陽圧(positive end expiratory pressure)を模擬したひずみ(以下、PEEPとする)を過膨張模擬ひずみに加えた実験を行った。この実験によるIL-6タンパク産生量の時系列解析の結果から、過伸展模擬ひずみにPEEPを加えると、細胞のIL-6タンパク産生量は過伸展模擬ひずみ単独の場合よりも減少することが示された。つまり、PEEPを加えることによって肺の過膨張時のIL-6タンパク産生を抑制できる可能性がある。この結果は、H23年度研究実績である機械的伸展からIL-6タンパク産生に至る候補経路の遺伝子発現変化の抑制を生じさせる可能性があると考えられる。
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