研究課題
腫瘍組織の悪性化にはがん細胞の周辺を構成する間質組織の変化がおこる。間質組織を構成する線維芽細胞や血管内皮細胞の変異の分子機序を説明できるような培養モデルを作製に取り組んだ。1)培養細胞が分泌する因子を解析するために培地の組成があきらかな無血清培地を使えることが望ましい。そのために間葉系幹細胞(MSC)や線維芽細胞(FB)培養に適応したSTK培地が血管内皮細胞(EC)培養に適用できるか試した。STK培養したMSCのコンディション培地(MSC-CM)と組み合わせて培養すると培地に血清成分が残っているときは接着培養でき、CMの影響で増殖も亢進したが、再現性が不安定でモデルとしては不完全であった。2)血管内皮細胞を悪性化させる条件検討のために血管内皮細胞培地(EGM2)培養したHUVECにヒト口腔扁平上皮がん細胞株(KON)のCM、CoCl2を加えることで低酸素、がん組織環境を擬似化したモデル培養をおこなった。KON-CM, CoCl2存在下でHUVECの増殖は亢進する傾向が見られたが、これも再現性が不安定であった。おそらく組成が完全に開示されていないEGM2培地中の細胞増殖因子が強い影響を与えるため、一定の条件を保持するのが難しい。申請者は別の研究プロジェクトで検討しているSTK培地培養と血清培養したMSC、FBの遺伝子プロファイリングの解析、遺伝子発現検証実験系で、STK2培地中に含まれる因子がラクトシルやグロボ系の糖脂質合成系を決定づける責任糖転移酵素の発現を誘導する可能性を見出した。血管内皮培地EGM2でもMSCやFBでこれらの責任糖転移酵素の発現を変化させたため、STK2、EGM2中に共通に含まれる因子が糖脂質合成経路の決定に関わる可能性を示唆した。
4: 遅れている
2013年度に教室の移動に伴い数ヶ月にわたって培養室をふくめ実験室の利用が困難になったため立て直しを強いられた。また組成の明らかな無血清培地による血管内皮細胞の系の立ち上げに失敗したため、その上で失敗から得られた情報や別プロジェクトの成果情報をもとに研究の方向性を修正している。
血管内皮細胞の無血清培地培養系による系の構築が困難であったこと、実験室の異動などによる環境下で当初の計画を遂行するのが難しくなった点を含めて、別プロジェクトで結果を得られている情報を生かして今後は血管内皮細胞の性質を理解することにつとめる。具体的には、無血清培地STK中に糖脂質合成系路の決定に重要な因子があることが間葉系幹細胞(MSC)や線維芽細胞(FB)の例で示唆されている。糖脂質のグロボ系列の産物の1つSSEA3はES,iPS細胞などの未分化マーカーとして利用されている。MSCやFBをもちいて糖脂質合成系路の決定に関わる因子を探索すると同時に、無血清のSTK培地で培養できなかった血管内皮細胞についても糖脂質の合成経路の決定について培養系を工夫して、糖脂質合成経路の決定の鍵となる因子が血管内皮細胞においても同様に作用しているかについて検討する。
所属の異動により実験室も移動したため、実験が中断した。さらに、当初の計画通りに結果が出なかったため、研究方針を修正する必要が生じた。間葉系幹細胞、線維芽細胞をもちいた糖脂質の合成経路決定の鍵になる糖転移酵素の発現誘導に関わる因子の探索をおこなう。またその因子が血管内皮細胞についても同様に作用しうるかを検討する。そのために、培養にもちいる消耗品(プラスティック製品、培地)、候補となる因子の購入、責任糖転移酵素の遺伝子発現定量に用いる試薬、糖脂質の解析依頼に残予算を用いる。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Br J Cancer,
巻: 109(8) ページ: 2237-2247
10.1038/bjc.2013.535
Pathol Int
巻: 63(1) ページ: 37-44
10.1111/pin.12031