低酸素環境における腫瘍血管内皮細胞の異常性獲得機序に関する研究 本研究は腫瘍組織より樹立された血管内皮細胞(EC)を用いて行なうことを前提に計画していたが、研究者が失職・所属異動による研究環境の変化により目的の細胞が利用できなくなったことから研究計画を大きく変更するに至った。当初想定していた腫瘍組織環境を擬似した正常血管内皮細胞培養条件の設定は想像以上に困難であったため研究計画の変更を繰り返すことになった。 腫瘍組織はがん細胞とそこに連絡する腫瘍血管、間質を形成する線維芽細胞などの間葉系細胞から構成される。がん細胞が間葉系細胞の影響をうけて性質を変化させるように腫瘍組織血管内皮細胞も間葉系細胞から影響をうけ異常性を獲得すると考えた。そこで間葉系細胞(間葉系幹細胞や線維芽細胞)をディッシュにプレコートなしに接着・増殖できる無血清培地(STK)を用いた培養系を利用して異常に増殖するEC作製を試みた。STK培養間葉系細胞や口腔上皮がん細胞の培養上清、CoCl2の添加でEC増殖が亢進するときもあったが、ECの接着は不安定であり結果が安定しなかった。無血清間葉系細胞培養条件に低酸素にて誘導されるHIF1誘導因子、がん細胞の放出する因子をふくんだ環境下での血管内皮細胞の細胞接着性は試験した条件では容易に変化しなかった。 一方、無血清培養した間葉系細胞が血清培養時と比較して糖脂質糖鎖発現を責任糖転移酵素遺伝子発現レベルで変化させる因子を偶然発見した。この因子は血管内皮細胞においては標的となる糖転移酵素遺伝子発現に影響しなかったことから糖脂質糖鎖の発現傾向が血管内皮細胞と間葉系細胞では異なっていると予想された。 これらの結果から間葉系細胞の無血清培養下では血管内皮細胞と間葉系細胞で細胞接着性に違いがあり、糖脂質糖鎖発現の違いはその要因の一つであることが示唆された。
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