研究課題
Thymosin beta4(Tb4)と高相同性を有するThymosin beta10(Tb10)が、マウス胎生15.5日齡(E15.5)歯胚に発現していることを見出し、Tb4 mRNAが歯原性上皮細胞に強く発現しているのとは対照的に、Tb10は主に歯乳頭細胞に発現することを確認した。そこで本研究では、マウス歯胚形成過程におけるTb10の発現様式と機能について解析することを目的とした。In situ Hybridization法(ISH法)を用いたTb10とTb4のmRNA発現局在検索の結果、歯胚形成過程においてTb4が上皮組織に発現しているのに対し、Tb10は主に歯原性間葉由来の組織に発現していた。また、胎生期におけるこれらの発現部位は細胞増殖が活発な部位と一致していた。更に、出生後では基質分泌細胞に成熟するまでの間の前象牙芽細胞と前エナメル芽細胞に強く発現が認められた。歯根形成期では、Tb10mRNAはヘルトヴィッヒ上皮鞘(Hertwig’s epithelial root sheath, HERS)や、その周囲の歯原性間葉細胞にも発現が認められたが、Tb4mRNAは発現が認められなかった。siRNAによるTb10機能阻害下でE11.0下顎とE15.0歯胚を8日間培養し、Tb10の影響を組織形態学的に検索したところ、Tb10 siRNA処理群では歯胚の発育不良が有意に認められた。そこで、細胞増殖活性への影響をKi67免疫組織染色にて、アポトーシスへの影響をTUNEL染色にて検索した。その結果、Tb10 siRNA処理群の歯胚では細胞増殖活性の低下が認められた。一方、Tb10 siRNA処理によるアポトーシスへの影響は認められなかった。また、マウス歯髄細胞(mDP)とマウス歯原性上皮細胞(mDE6)を用いてTb10 siRNA処理による機能阻害を行ったところ、細胞増殖活性の低下が認められた。本研究により、Tb10が歯胚形成過程において、時期および部位特異的に発現し、主に歯胚を構成する細胞の増殖活性を制御することで歯胚形成に関与している事が示唆された。
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