研究概要 |
口腔粘膜は消化器系の最前線であり、基本味の刺激に加えて物理刺激や浸透圧刺激などにも曝されている。私は、この物理機械刺激を口腔上皮が感知し、その刺激に対応して上皮組織を防御しているとの仮説をたて研究を行った。TRPV4(Transient receptor potential cation channel subfamily V member 4)チャネルは低浸透圧、機械刺激および温度刺激により活性化されるカルシウム透過性チャネルである(Nilius B, et al., 2003)。TRPV4は口腔粘膜上皮に発現するTRPチャネルファミリー群の中でも強く発現していることをRT-PCR法およびWestern blotting,免疫組織化学により確認した。まず、ラット初代頬粘膜上皮細胞の培養系を立ち上げ、TRPV4の生理機能を調べた。Whole-cell patch clamp法による電位記録によりTRPV4作用薬刺激によって誘発された細胞膜電流は増強が認められた。カルシウムイメージング法により、TRPV4の作用薬刺激は細胞内カルシウム濃度上昇を促進した。TRPV4欠損マウスの口腔粘膜上皮初代培養細胞では、TRPV4作用薬により誘発されるカルシウム濃度上昇は見られなかった。こうしたことから、口腔上皮細胞におけるTRPV4は機能的に発現していることが明らかになった。 口腔は常に唾液に浸されている。唾液は血清や組織中に比べると浸透圧が低い。粘膜上皮がこの環境下でどのようにバリア構造を保っているのかは全く報告がない。そこで、TRPV4が口腔粘膜上皮における浸透圧センサーであり、口腔上皮構造の維持に機能しているとの仮説を立てた。電気生理学的実験あるいはカルシウムイメージングにて、低浸透圧刺激がTRPV4の活性化を起こすことを確認した。また、低浸透圧刺激が口腔上皮細胞からのATPの放出を促進することから、ATPが口腔上皮から末梢神経へ刺激を伝えるtransmitter候補であることが示唆された。野生型マウスおよびTRPV4欠損マウスを利用し、免疫染色実験法にて低浸透圧刺激により細胞骨格であるactinの再構築が認められたことから、TRPV4により、細胞間の結合が維持されていることが示唆された。 以上より、口腔粘膜上皮細胞にTRPV4が機能的に発現し、低浸透圧刺激を感受することにより、上皮構造の恒常性を維持するとが考えられた。
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